〈コラム〉風をとらえる

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丸山敏秋「風のゆくえ」第25回

3月中旬に北海道の網走市で、オホーツク海の流氷を見に出た。流氷とは氷の塊が海にプカプカ浮いているのではない。何百メートルもの氷の平原である。そこを砕氷船オーロラ号が豪快に割って進む。1メートルもあろう海氷の断面が、蒼く透明な光を放っていた。アイスブルーというのだろうか。
流氷観光は当初、研修会のスケジュールにはなかった。その日の風向きで、流氷は接岸したり、はるか彼方に遠のいてしまうからだ。今年の流氷は遅い時期まで残り、あの日はほどよい風向きだったので、近場で見れたのはラッキーだった。
昔の人々は、世界の四方あるいは八方に、色々な風を吹かせる神様がいると信じた。どんな風がどのくらい吹くかで、天候はまったく変わり、農作物の出来が違ってくる。風神に祈りを捧げる祭儀は、今でもあちこちに伝わっている。伊勢神宮の外宮(げくう)にも風神を祭る末社がある。
世の中にもさまざまな風が吹いている。良くなったり悪くなったりする景気も、長期的に吹き渡る風のようなものだ。景気の「気」とは目に見えないエネギーのこと、すなわち「風」に等しい。日本経済にはデフレという冷たい風が吹きつづけてきた。凍死寸前のところで、アベノミクスという新しい風が起こり、株価はたちまちリーマン・ショック以前に回復し、円高も是正された。
ただし、まだ期待感という風が吹いているだけである。はしゃぎすぎて火傷を負わぬよう、有効なデフレ退治策を実行に移してほしい。日本経済の回復はアメリカをはじめ世界経済から強く望まれている。
思い返せば、安倍首相の誕生は奇蹟的だった。今から1年前に、誰が予想しただろう。9月あたりに発生した強い追い風が、第2次安倍政権を生んだのだ。一度失敗してからの安倍さんの臥薪嘗胆ぶりが、風神から見込まれたのだろう。
わが身のまわりにも、さまざまな風が吹いている。順風もあれば逆風もある。嵐も起これば、すきま風も吹き込む。だから人生は面白い。無風ではつまらない。
肝心なのは、風向きはいつか変わると心得ておくことだ。冷たい北風も、いつか暖かな南風に変わる。だから時にはじっと耐え抜くことが必要だ。暖風の快さに心まで弛んでしまうと、急な風向きの変化に対応できない。
一流の勝負師は風をとらえるのが上手い。どの風をキャッチして帆を上げたらよいかを心得ている。「機を待ち、勢を恃して、動に転ずる」と言われる。機運が熟するのを待ちながら、じっくりと態勢を整え、風向きが変わったらに一気に勝負に出るのだ。
今日はどんな風が吹いていたか。明日はどんな風が吹くか。そう考える心の余裕を持ちたいものである。
(次回は5月11日号掲載)
maruyama 〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)、『今日もきっといいことがある』(新世書房)など多数。

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