渡辺謙(1)

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記憶がなくなっても、感情はなくならない

「ガチ!」BOUT.6

 

渡辺謙

 

ハリウッド俳優として地位を確立した渡辺謙。10日、初主演、そして初めてエグゼクティブプロデューサーとして制作に関わった映画「Memories of Tomorrow」(邦題「明日の記憶」)の試写会に伴い、ニューヨークで記者会見を行った。各国メディアからの質問に英語で一つ一つ真摯(しんし)に答える姿は、世界にチャレンジし続ける姿勢を象徴する。

企画も渡辺自身が行った。原作を読み終えた時に心に残った温かい感動。これを人々に伝えたいと思い、深夜に著者に手紙を書いたところから同映画の制作は始まったのだ。

「トリック」などスタイリッシュな話題作で知られる堤幸彦監督に依頼したのは、彼の現代の日本を捉える目やリズム感、そして彼も主人公と同世代であるが故に持つ感覚が、現代のヒューマンライフを表現するのに必要だったからだ。また、自ら脚本に参加し台詞(せりふ)の意味を深く理解していた渡辺は、英語の翻訳によるニュアンスの違いも直した。制作者として「とにかく最初から最後まで(作品の)近くにいるべきだった」。

ちょうど同映画の制作終了後、クリント・イーストウッドに出会った。「彼に会って、どんなに難しいテーマでも、情熱とアイデアさえあれば、そしてそれを持ち続けることができれば、いい映画は創ることができると確信しました。『硫黄島からの手紙』で彼はそれをしていたのです。そして自分のしたことが正しかったと、もう一度受け止めることができました」

渡辺自身が作品に教えられたこともある。「演じて気付いたのは、記憶がなくなっても、感情は残るということです」「だから、妻の名前を忘れても、大切な人だということは感じている。妻も置いていくことはしない。(記憶がなくなっても)もう一度出逢って恋愛していく、という小さな希望を妻のかすかな笑みの中に見出すことができるのです」

自分がアルツハイマーになったらという恐れは無いかという質問に、渡辺は答えた。「いろいろなことがあるのが人生なのだから。どんなことがあっても支えていてくれる人がいて、自分のそばで生きているものをどれだけ大切にするかの方がもっと大事で、病気自体を恐れる必要はないという勇気を(この作品から)持ちました」。〈文中敬称略〉

■作品情報「Memories of Tomorrow」(邦題「明日の記憶」)

明日の記憶

〈あらすじ〉今年50歳になる広告マン佐伯雅行を突然襲う「若年アルツハイマー病」。失われていく記憶を必死でつなぎ止めるために闘う佐伯と、共に闘い慈しみ、支える妻を描く。人間の愛と本質に真っ向から挑む深い感動のドラマ。同映画は日本アカデミー賞5部門にノミネート、渡辺謙は最優秀主演男優賞を受賞した。
www.memoriesoftomorrowmovie.com

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2007年5月10日掲載)

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