宮本信子

0

生涯現役? だったら幸せでしょうね(にっこり)

「ガチ!」BOUT. 251

 

宮本信子

 

昨秋、故・伊丹十三監督の映画「タンポポ」の4Kデジタルリマスター版が米国で制作され、ニューヨークを皮切りに北米で上映された。同作の主演女優で、伊丹監督夫人でもある女優の宮本信子さんが来米。1985年の公開当時、日本国外で高い評価を受け、米国にラーメンブームを起こすきっかけになったとも言われている同作について、お話を伺った。(聞き手・高橋克明)

映画「タンポポ」NYで30年ぶりにリバイバル上映

全米公開時から30年ぶりに映画「タンポポ」がニューヨークで上映されることになりました。最初に聞いた時のお気持ちはいかがでしたか。

宮本 とてもビックリしました。(日本公開から)長いですからね…30年ってねぇ…。しかも日本ではなくてアメリカでっていう驚きとともに、とてもうれしく思いました…。うん。伊丹が亡くなって来年(2017年)で20年になるんですね。そういう意味でも感慨深くはありますね。それと…ニューヨークは今、ラーメンが大変ブームなんですってね。

ブームを通り越して、いまや「定番」になって完全に市民権を得ている感じだと思います。

宮本 ものすごい勢いだって聞きました。その流れも劇場で上映されることに後押ししてくれたんじゃないかなって思います。

監督にとってもうれしいニュースですね。

宮本 伊丹さんはね、いつも10年くらい先のことを見据えて映画を作ってたんですけど、でも、さすがに30年後のニューヨークでっていうのは…。(笑)

ひょっとしたら、監督はそのことすら予見して…。

宮本 さすがにそれはないわ(笑)。ただ、(テーマは)「食」ですからね。食べることとセックスは時代が変わってもね(変わらない)。伊丹さんの映画って、そういうものが全て盛り込まれていたから、私はいつも「可愛らしい映画だな」って思ってました。いまでも思ってます。

伊丹作品が上映され、評価されることは決して珍しいことではなかったと思うんです。その中でも「タンポポ」は宮本さんにとっても特別な作品だったのではないかと思うのですが。

宮本 そうですね。「お葬式」という映画が大ヒットして、その次回作が注目された時に、伊丹さんは、この「タンポポ」を作りたいって。ただかなり特殊な作品になりそうだから、もしかしたら(興行的に)当たらないかもしれないって(言うんです)。でも「それはそれでいいんじゃないですか」って私言ったんですね。だって、当たるためだけに映画を作るわけじゃないから。やりたいことをやればいいし、あなたが作りたいものを作れば結果なんていいじゃないですかって、そういうことを言いました。それが一番ですもの。

結果は後からついてくる、というか…。

宮本 いえ、それすら思わない。そんなことすら考えないですよ。とにかく作りたいものを作ろうって。「お葬式」の原点もそうだったので。

そして空前の大ヒットでした。

宮本 あくまで、それは結果でね。でも作る前には、当たる当たらないなんてどうでもいじゃないの、って言ったことを覚えてます。

観客のニューヨーカーには、作品のどこを感じてほしいですか。

宮本 いやぁ、そういうものはないです。それはこちらから言うことではないので。むしろ感じていただいたことを私が伺いたいくらいです、うん。

公開当時に見て、ニューヨークでラーメン屋を始めたアメリカ人もいたとか、やはり作品の持つ影響力は計り知れないですね。

宮本 今は(アメリカの)皆さんもお好きですよね、ラーメン。当初はね、やっぱり、こう、ズルズル、すするっていうことが外国の方は苦手だと思いますよ。マナーが悪いっていうかね。最初は静かーに、こう召し上がっていたと思うんです。でも、今日本に観光にいらっしゃるアメリカ人の方は、テレビなんかで見ているとみんなズルズルーってやってますものね。(笑)

ニューヨークでも、「音を立てていいんだ」ってことで、必要以上にズルズル言わせてるのもいたりします…。

宮本 (笑)。なので、それだけ日本文化が浸透してるってことですよね。山芋もすするし、納豆もすするし、ね。今度はそういったものも浸透していってほしいくらい。

浸透しすぎて、最近では日本人の僕が聞いても不快なほどうるさいのもたまにいて。

宮本 あはは。そうやって食べた方がおいしいもんねー。

宮本さんご自身は、今年(2016年)芸能生活…。

宮本 ちょっと言わないでくださいよ!(笑)ウン十年ってことでごまかしといて(笑)。歳のことは全然、大丈夫ですから。(笑)

若さの秘けつというのは…。

宮本 知らない!(笑)ラーメン食べてるから…。それは嘘。冗談だけど。(笑)

でも、日本のあらゆる映画賞を受賞されてきました。この先のゴールはどこになるのでしょう。

宮本 そういうことねぇ…。考えたことないんです、私。ホントに思ったことないの。なので…うーん…ゴールねぇ…。もちろんこの先にできることなんて限られてるとは思うんです。年齢的にも、体的にも。なので、そういった意味でも、一つ一つ与えられた仕事を大切に、ね。今までだって、昔からそうですけれど、一つ一つ丁寧にやってきたことの積み重ねでしかなかったですし、これからもそういう仕事にめぐりあいたいし…。そう思って生きてきたので、そのスタンスは変わらないと思います。

もちろん生涯、現役で。

宮本 そうねえ、そうだったら幸せでしょうねえ、うん。

 

宮本信子

 

そして宮本さんはジャズシンガーとしての顔もあります。

宮本 顔だなんて、ねえ(笑)。でも歌うことは好きですよ、うん。

ニューヨークには至るところにジャズクラブもあります。今後この街で歌うなんてことも…。

宮本 そんな大それたことなんて考えたことないです。ただ私は好きなだけでやってるだけですから。うんと、若かったら、そうねえ、10年くらい前でしたら恐いもの知らずで「やるわ!」なんて言うかもしれないですけれど、今はもうとんでもないです。怖いですね。(笑)

機会があれば…。

宮本 多分、やらない(笑)。とんでもない話。

ニューヨークにはどのくらいの頻度で来られていますか。

宮本 あんまりないです。旅は好きなんですけれど。
(横にいたマネージャーさんが) 伊丹さんと昔来られましたよね。

宮本 あ、そうね。あれいつだったっけ。シカゴ映画祭の帰りね。もう23年くらい前かな。亡くなったのが20年くらい前だから。

伊丹さんとの思い出の場所でもあるんで…。

宮本 覚えてないのよ(笑)。伊丹さんに聞いて(笑)。ただ、最初はね、朝倉摂さん(演出)の「人形姉妹」という舞台をやりに来ました。その時はサンタフェとか、西海岸からバスツアーでいろいろ回って、どこかの大学のキャンパスで、吉行和子さんとの二人芝居なんですけれど。

8年前、吉行さんのニューヨーク再公演の際、インタビューさせていただきました。

宮本 あら、そう。ニューヨークではラ・ママシアターっていうところだったんだけど、(その時も)同じ場所?

同じですね。ニューヨークにはどういった印象をお持ちですか。

宮本 最初は、怖いって感じがありましたね。うん、まず、怖い。でもね、今回来させていただいて、平気になりました。でも、緊張感はありますよね。みんな、なにか、忙しそうだし、東京もそうかもしれないけど、「生きてる!」って感じの人と、ちょっと疲れてるって感じがする人と両方いる感じ。私はどっちかっていうと、もうちょっとのんびりした場所の方が性格的には合うんじゃないかなって思ってますね。(笑)

来られた際に必ず行く場所とかはありますか。

宮本 美術館は行きたい。メトロポリタンも行ったし、今回はMoMA(ニューヨーク近代美術館)に行きますね。昨日は気になってた「9・11メモリアル(ミュージアム)」に行きました。あとは、ほとんど買い物ね。ショッピングは好きね。(笑)

最後にニューヨークの日本人にメッセージをお願いします。

宮本 皆さん、もう十分頑張ってらっしゃるでしょうから、頑張っている人にこれ以上頑張れなんて言えないです。もうちょっとゆっくりなさったらいかがですか、ってくらい(笑)。お体に気をつけて、頑張りすぎないようにしてください。

 

昨秋、故・伊丹十三監督の映画「タンポポ」の4Kデジタルリマスター版が米国で制作され、ニューヨークを皮切りに北米で上映された。

 

★ インタビューの舞台裏 → ameblo.jp/matenrounikki/entry-12241608271.html

 

宮本信子(みやもと・のぶこ) 職業:女優
1945年生まれ。北海道出身。63年文学座付属演劇研究所、64年、劇団青芸在籍時に別役実作『三日月の影』で初舞台。67年劇団青俳で木村光一作演出『地の群れ』、今井正演出『神通川』に出演。72年よりフリーとなり、映画監督・伊丹十三氏と結婚・出産後、二児の育児に専念。84年、映画「お葬式」以降、全伊丹監督作品に出演し、88年「マルサの女」ではシカゴ国際映画祭で最優秀主演女優賞、日本アカデミーで最優秀主演女優賞、キネマ旬報報道で主演女優賞など多数受賞した。90年9月から東宝芸能に所属する。来月4日には、日本の映画専門チャンネルで「24時間まるごと 伊丹十三の映画」が特集される。「タンポポ」を含む伊丹監督作10本が放送されるほか、ドキュメンタリー番組「タンポポ、ニューヨークへ行く」もオンエアされる。
公式サイト:www.miyamoto-nobuko.jp/

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2017年1月21日号発行)

Share.