〈コラム〉「そうえん」オーナー 山口 政昭「医食同源」

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マクロビオティック・レストラン(38)

そのころ私はアッパー・ウエストサイドのアパートから「S茶屋」まで、お金をセーブするためと健康のために約三十分歩いていました。ある日、ブロードウェイの九十ストリートで、SOUENという看板を見つけた。こんなところに日本レストランがあると(チャイニーズ・レストランかもしれないが)ウインドー越しにメニューを見ていると、ブラウン・ライスという文字が私の目に飛びこんできた。ブラウン・ライス? 白米がホワイト・ライスだから、ブラウン・ライスは、ひょっとして玄米? これが、それから長いつきあいが始まる玄米との出会いでした。
玄米は日本でも食べたことがありませんでした。身体にいいらしいから食べたいと中学生のころから思っていましたが、そのときまで、ほんとうに一度も食べたことがなかったのです。(麦飯は食べたことがあります。通産大臣だった池田勇人の「貧乏人は麦飯を食え」のころで、麦飯は身体にいいと知り母に頼んで炊いてもらっていたのですが、父が嫌って、二、三日で取りやめになってしまいました。)その玄米を日本ではなく、日本から何千マイルも離れたニューヨークで見つけたから、| |そうか、アメリカまで来たもうひとつの理由は、これだったのかと深く感動しました。
感動したというのはおおげさな表現ではありません。子供のときから食べ物が大切なことを知っていた私にとって、ニューヨークで玄米が食べられると知ったときの感動は、長い間憧れていた女性と旅先で偶然出会い、連絡先をもらったときのような感動でした。
(次回は11月第4週号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。

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