〈コラム〉さくらライフセイブアソシエイツ代表・清水直子「米国最先端臨床現場から」海外治療コンサルティングリポート 第35回

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着床前診断35~一般的な着床前診断に関するよくある疑問(5)~

着床前診断における現在一番進化している技術は何か(続編2)

前回(9月5日号掲載)、着床前診断の新たな技術として、NGS(Next Generation Sequencing)、次世代シークエンスの技術が登場したことについて説明を開始しました。
今までの多くの着床前診断が染色体の異数性を問う技術であるのに対し、受精卵のモザイクについても高い確率でわかるNGSを使用することはどのような意義があるのか、着床率にどう関係するのか、について説明します。
NGSを使用した2015年の臨床実験の結果によると、胚盤胞になった受精卵の約12%がモザイクであると分類されたことがわかっています。受精卵の染色体が正倍数性であることは健康な妊娠には絶対的な必要条件ですが、染色体の正倍数性が確認された受精卵の半数がモザイクであったことを当臨床試験結果が示しました。例えば、着床前診断で正倍数が確認された受精卵を移植しても7%の流産率が確認されていますが、その流産のうちの60%がモザイクに関連している、と発表されています。
着床前診断を利用したにもかかわらず妊娠結果が陰性に終わった弊社のクライアントのケースで、「胚盤胞まで受精卵が育ち、その上、着床前診断を行い正常であるとした受精卵のみを移植したにもかかわらずどうして妊娠できなかったのか」というご質問を受けることがあります。多くの専門医は、 「着床には多くの要因があるため、着床前診断で正常だったとしても、そのことは着床を保証するものではない」と説明しますが、上記の臨床検査結果は、回答のひとつになりえることを示しているのではないでしょうか。
しかし、NGSは胚盤胞で生検を行い、その後、結果に時間がかかることからすべての検体を冷凍することが必要です。デー6でフレッシュ受精卵移植を希望する場合、もしくは、単一遺伝子疾患(シングル遺伝子疾患:Single Gene Disorders)を検査したい場合は、このNGSは利用できません。
今後も、科学、医療の進歩に従って、新しい技術が出現し、確立されていくことは間違いないでしょう。また、技術の適用のみではなく、どのような体外受精の方法と併用され、各患者様のケースに最適であるのか、という判断も必須です。つまり、着床前診断を伴う体外受精サイクルを行う場合は、日々、アップデートされた新技術を学び、臨床に適用していく柔軟、かつ、慎重である専門性の高い医師を選ぶことが大切です。
2015年にこの新しい着床前診断技術出現があったことを最後にお伝えして、2年半以上に亘って説明してきた着床前診断のリポートを終了します。次回からは米国・先進国における出生前診断についての説明の連載を開始します。
(次回は11月第1週号掲載)

 

清水直子〈プロフィル〉清水直子(しみず なおこ) 学習院大学法学部卒業、コロンビア大学で数学を学び、ニューヨーク大学スターンスクールオブビジネスでMBAを取得。マウントサイナイ医科大学短期医学スクール修了。メリルリンチの株式部で活躍し、2003年さくらライフセイブ・アソシエイツを設立。
【ウェブ】www.sakuralifesave.com/

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