〈コラム〉ケン青木の新・男は外見 第58回

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注文服と既製服 part 3

retroman「注文服と既製服、何が違いますか?」というご質問をいただきます。既製品の役割は以前も書きましたが“時代性”の確立とその表現にあります。つまり流行を創るのが既製服の目的なのです。対し注文服はより“パーソナル”なんです。既製のスーツの上着やジャケットの“肝”と言えるのが服の前面のデザインです。これを“LOOK”と言いましょう。肩幅広めか狭めか、上着丈長めか短めか、全体のシルエットゆったり目かピッタリ目か…。相反する部分に注意をしつつ、既製服のデザインを起こしていきます。
実はこの“LOOK”、紳士服の本質とはあまり関係ないのです。別にどうでもいいんです(笑)。
紳士服の本質とは着心地の良さ、つまりFITにこそあるのです。FITは、鏡で正面からは見えない背中の部分に本質は集約されていて、首、肩、背中、肩甲骨の出っ張り具合、加えてお尻は平らか、出尻か? etc.。また既製品はあらゆる体形の方に着ていただく性質上、背中は特に型紙を起こさず、ほぼ真っ直ぐに断つのです。それにより猫背ぎみの方(屈伸体)、反対に反り気味の方(反身体)どちらのタイプにも着用いただけるのですね。
つまり、既製品は誰にでも着てもらえるが、誰にも完全には合わない、という宿命なのです。日本の男性の多くは、既製服のゆったりした、あいまいな着心地に慣れてしまっている方が多いようです。春から夏にかけ東京丸の内や大手町を歩きますと、スーツ着用で、ネクタイをしない方をよく見かけます。でもこのスタイル、全然カッコ良く見えないのはなぜなのでしょう? それは、スーツの背中、見事に真っ直ぐだからなんですね。故に上着のボタンを外すと、前身頃が左右に逃げてしまうのです。それに比べて注文服は横から見れば背中に服地が逆S字にキレイにFITしており、そのため前身頃のボタンをはずしても前身頃が開かず、ネクタイをしていなくともだらしなく見えないのです。これを上着の拝み、と言います。(次回は3月第4週号掲載)

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〈プロフィル〉 ケン青木(けん・あおき) ニューヨークに21年在住。日系アパレルメーカーの米国法人代表取締役を経て、現在、注文服をベースにしたコンサルティングを行っている。日本にも年4回出張。

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