文月メイ

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歌には生きていこうと思える力があると思うんです 

 「ガチ!」 BOUT. 170 

 

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子供の虐待をテーマにしたデビュー曲「ママ」が動画再生150万回を突破し、日本で話題になっているシンガーソングライター、文月メイ。「ぼくのことが邪魔なの? あのゴミ袋と一緒に捨てるの?」。衝撃的な言葉でつづられたこの楽曲が動画共有サイト「YouTube」にアップされたのは、デビュー前。以来、動画には賛否両論も含め多くのコメントが寄せられ、シェアされ続けた。NHKのニュースなどでも特集されるなど広く紹介され続けている。そんな注目のアーティスト、文月さんに歌手になったきっかけ、将来の夢など、お話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

動画再生数が150万回突破 

デビューして、まだ半年くらいということですが。

文月 そうですね、去年の10月2日にデビューさせていただいたので、まだそれくらいです。

「YouTube」の再生数が150万回を超えました。この半年間でご自身を取り巻く状況は当然変わったと思うのですが。

文月 曲を出した当初は自分の中で伝えたいメッセージをそのまま歌にしただけなんですけれど、これだけの方に観ていただいて、コメントもたくさんいただいて、この「ママ」って曲を出したことで、気付かされたことはすごく多かったですね。「あ、歌ってこういうことなんだな」ってあらためて感じさせられました。

150万回再生…あ、僕も20回くらい貢献させていただいてるんですけど。(笑)

文月 あ。ありがとうございます。(笑)

ご自身では150万回再生という数字は何が要因と思ってらっしゃいますか。「ママ」という曲はある意味過激な内容でもあり、重いテーマでもありますよね。

文月 そうですね。テーマがテーマだけにある程度、否定的な意見も覚悟して出した歌でもあったんです。でも、ただ単純に「虐待防止」のつもりで私は作ったわけではないので。もっとこう、普遍の家族愛だったり、親子愛だったり、本来の人間が持っている愛情っていうものを伝えたかったので、そういうところを皆さんが共感してくれたんじゃないかなって思います。

悲しい曲に聞こえるけれど、それだけじゃない向こう側がある、と。

文月 死んじゃう子供が最後までお母さんを責めないという、ある意味スゴい皮肉な曲なんですけれど、でもそこに真意があるというか。虐待のことを歌っているんだけど、その先にもっと伝えたいことがあって…。何を感じるかは、聞く人それぞれだとは思うんですけど、何かを感じてもらえるような歌詞にしたかったんですね。オブラートに包んだ歌詞だと私の場合、歌う意味がないっていうか、伝えたいことが伝えきれない。あえて最後まで「お母さんを恨まない」っていう姿勢を貫き通している歌詞になっているのはそういう理由からなんです。

「ママ」の歌詞を思いついた時はどういったタイミングでしたか。

文月 直接のきっかけはニュース報道で、ちょうど私が見たのは目黒区で起きた事件で、実際にポリ袋に男の子を入れたまま放置して死なせてしまった母親の事件を報道していたんですね。それを見て「どうして自分の子供を殺(あや)めることができるんだろう」って。「何でだろう」、「どうしてだろう」って思いがずーっと心の中に引っかかってたんですね。その2、3日後の朝方「どうして、ねぇママ」っていうサビの部分のフレーズがメロディーと一緒にひらめいたんですね。「神様が決めたの? ぼくは生きちゃダメって」。あ、これは書かなきゃって明け方4時ごろに飛び起きて、歌ってみて。で、すぐ携帯に入れて。

歌詞と曲が、降りてきた。

文月 そうですね。この曲に関しては「降りてきた」と思いますね。(他の部分の)歌詞を詰めるのも早くて、全然時間がかからずに出来上がりましたから。普段は、例えば電車に乗ってる時だったり、道を歩いてる時だったり、いろいろな情景を見て感じた時に歌詞が思い浮かぶことが多いんですけど、でも「ママ」に関しては(ニュースを見た後)その男の子が何かを伝えてくれって言ってるのかなって思うくらいパッて出てきましたね。(どちらにしても)結局は心を動かされた時に出てくる歌詞が本物だと思います。「ママ」は自信を持って世に出せると思えた歌なんですね。

反響も非常に多かったと思うのですが。

文月 本当にいろいろな方からメッセージをいただきました。中にはここまで書いてくれるんだっていうディープなメッセージをくださる方もいて。それこそ、今まで自分が子供に虐待してしまっていたけど、動画を観て涙が止まらなくなって、スゴく悔いてる方とか。「この子を守れるのはアタシしかいない。あらためて大切にしようと思いました」というメッセージはもちろんのこと、逆に「認知症になっている母親のことを思い出して、涙が止まりませんでした」という娘さんもいらっしゃいましたね。あとは母親が刑務所に入ってて、出所後すぐに、そのお母さんが亡くなってしまった16歳の女の子から、「世間からしたら悪い母親かもしれないけど、アタシにはたった一人のお母さんだったので、これからも母の思い出を胸に一所懸命生きていこうと思います」とか。この曲をリリースしたことにより、いろいろな人の人生の一部を垣間見られたっていうことが個人的には大感動でした。人が生きていこうと思える力が歌にはあるんだなって。歌って人の人生にこんなにも作用するもんなんだなってあらためて感じました。そう感じられたことが、あの歌を出した前と後で一番変わったところですね。

他の曲もですが文月さんの歌はいわゆる「流行のJ―POP」ではないですよね。ひょっとしたら「売れる」「売れない」を基準にした場合、遠回りになる可能性もあると思うのですが。

文月 おっしゃる通りだと思います。ただ私はメッセージ性じゃないけど、皆さんに共感してもらえるものを作っていきたいと思ってるので。軽く口ずさむ感じの曲ではないかもしれないけど、1曲、1曲、全部自分が考えてきたり、感じてきたり、少しずつ自分の人生を削り入れてるという感じなので、そこに皆さんが自分の思いを乗せてくれたらうれしいなって思っています。

その、自分の思いを歌にして伝えたいと思ったきっかけは何だったのですか。

文月 曲作り自体を始めたのは16歳くらいからなんですけど、当時は洋楽が好きで20歳くらいまでは英語で作ってたんですね。だから、そんなに歌詞に重きを置いてなかったというか…。でもそのころ、ちょっと精神的に不安定な時期があって、結構、こう、生きていくってことについて考え出して。そのころからですかね(伝えたい)言葉がいっぱい出てくるようになりました。人生だったり、生き方というものを意識した言葉を歌詞にして書き出すようになりました。

聞いていると「天職を得た」って感じですね。

文月 でも1回、音楽をあきらめた時期もあったんです。塾の講師に転職したこともありました(笑)

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「YouTube」で150万回再生を記録(サイト画面から)

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「ママ」のジャケット写真

塾の先生をなさっていたんですか!?

文月 そうなんです、そうなんです(笑)。20歳くらいまで路上(ライブ)とかやってたんですけど、あまりにうまくいかなくて。で、歌の世界をあきらめて、英語の先生になったんですね。でも、どうしてもやりたくて、また昨年くらいにデモテープ作って、今の事務所に拾ってもらって。

講師時代にも自分にはやっぱり歌しかないと…。

文月 (さえぎるように)思いましたねー。もちろん先生時代も楽しかったし、学ぶことも多かったんですけど、やっぱり…(沈黙)……音楽が好きなんでしょうね。(にっこり)

そんな文月さんが影響を受けたアーティストは誰でしょう。

文月 もともとはビートルズなんですけど、あとジョニ・ミッチェルとか、ボブ・デュランとか、あのへんのフォークロックがずっと好きでしたね。日本の方ですと、岡林信康さんとか、高田渡さんとか。あのへんの古い方が好きです。

今後の目標、ゴールを教えてください。

文月 理想のアーティスト像としては、やっぱり「ママ」じゃないけど、ああいう何か問いかけができる楽曲をこれからも作っていきたいなと思います。(その一方で)もともと16歳のころから曲を作ってきているので、「ママ」みたいな社会派だけでなく、自分のルーツになる音楽だったり、「文月メイ」の音楽を皆さんと共有できるアーティストになりたいなと思っています。

影響を受けたアーティストが海外の方が中心なので、今後は世界を視野に入れて、例えばニューヨークなど北米でライブや曲をリリースされたい意向はございますか。

文月 そりゃあ、世界に向けて活動したいですよ!(笑)。「ママ」の英語版も作りたいなぁって考えたりしてます。いつか進出したいですね。

それでは最後に夢を持ってアメリカに住んでいる日本人読者にメッセージをお願いします。

文月 私もずっと音楽をやりたいと思って、結局27年間あきらめなかったから道が開けたと思うので、夢を叶えるって、やっぱり最後まで信念を持って、自分を信じてあきらめないということに尽きると思うんです。私もこれからもっともっと叶えていきたい夢があるので、一緒に頑張りたいなって思います。

本日はありがとうございました。それにしても、ついこの間まで塾の講師をやってらしたなんて驚きです。 当時の生徒さんで、今歌っている姿を見て、びっくりされる方もいらっしゃるかもしれませんね。

文月 あ。でも多分、私だって気付かないと思います(笑)。歌っている時と普段が全然違うので。(笑)

文月メイ(ふみつき めい) 職業:シンガーソングライター
1986年生まれ。千葉県出身。父の影響でジャンルを問わずさまざま音楽に触れて育つ。ルーツは、ビートルズをはじめとする60〜70年代のロック、フォーク。特にボブ・ディランやジョニ・ミッチェルなどを愛聴。本当の愛を知りたいというテーマで曲を作っているシンガーソングライター。混沌(こんとん)とした現代社会の中で、楽しくもあり悲しくもありえる全ての出来事の中に、本当の愛があると信じ続けて歌う。2013年10月、シングル『ママ』でメジャーデビュー。今年2月、アルバム『She is.』を発売。
公式サイト:www.universal-music.co.jp/fumitsuki-mei/

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★「文月メイの独り言」 産経新聞社発行の「夕刊フジ」の公式サイト、ZAKZAK(www.zakzak.co.jp)で掲載のコラム。最新テーマは「ポール、Get Back! ビートルズってやっぱりすごい!」(http://bit.ly/1tP7eTx

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2014年6月14日号掲載)

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