櫻井翔/三池崇史

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「ヤッターマン」はハリウッドに媚びない
最初からこれはすごい映画になりそうだなって

「ガチ!」BOUT.46.45

 

 

3月に日本で公開される映画「ヤッターマン」のワールドプレミアが6日、ニューヨークで行われた。現在開催中のコミック・コンベンション「NYコミック・コン」にも参加した三池崇史監督(写真)と主演の櫻井翔さんに、世界に先駆けた上映会の前日、同作についてお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

NYでワールドプレミア上映/「NYコミック・コン」にも参加

いよいよ明日、日本に先駆けて、ここニューヨークでワールドプレミアが行われます。今のお気持ちはいかがでしょうか?

三池監督 そうですね、まぁ、出来たてですからね。出来たてほやほや。日本ではまだ関係者だけしか(見てませんから)。それをニューヨークでって、無謀ですよね(笑)。でも、まあ観客と一緒に楽しめればな、と。全然まだ知られてないころにオリジナルビデオ、Vシネマっていうジャンルがあるんですけど、それの時に自分の作品が海外で上映されるってことで映画祭に呼ばれたことがあってね。それがトロント映画祭だったわけですよ。その時に観客は俺の存在も知らない、内容も分からない。でもそれでも集まってくれた観客と一緒に見た自分の作品が一番面白かったんですね。だから明日もそういうふうに楽しめるといいなって、それだけですね。

櫻井 今、監督の話を聞いて、会場の空気を楽しみたいなと思いましたね。純粋なお客さんのリアクションというのを、まだ知らない状態なんですよ。その最初のリアクションがここ、アメリカのニューヨークっていうのもすごいですけど。(笑)

アメリカ人のお客さんもいっぱいいらっしゃると思います。

櫻井 おそらく「ヤッターマン」というものを知っている人もいれば、知らない人もいるだろうし。うーん、どこで笑ってくれるのか、どこで興奮してくれるのか。会場の雰囲気を楽しみたいですね。

今回の映画はキャスティング自体が非常に話題になりました。(ヤッターマン)1号役の櫻井さんであり、ドロンジョ様役の深田さんであり。そこは監督の意向だったんでしょうか。

監督 「理想を言えばこの人たちですよね」っていうのをプロデューサーたちががんばって交渉してくれて。(皆さん承諾してくれて)「ホント!?」みたいな感じですね(笑)。「マジっすか!?」みたいな。「やりますかね!?」ってね。もともとオリジナルのあるアニメの人気キャラクターなので、どうしてもそこと勝負しなきゃいけないから独自に力を持っていて、魅力ある人間が必要だったんですよ。

そこで1号の役には櫻井さんだったと。

監督 会う前に勝手に1号のキャラクターって櫻井さんに近いと思ってたんですよ。テレビを通して受ける印象だけだったんですけど。ただ、出来上がってみると、もう他の人では無理ですね。ありえないです。

櫻井 本当ですか! そう言ってもらえるとうれしいです。(にっこり)

監督 ありえない、ありえない。これはもう、何年経って、どこがどうやっても、たとえハリウッドがつくっても超えられない。櫻井さんがやんないと、無理。

逆に櫻井さんは、この役のオファーが来た時はどう思われましたか?

櫻井 まず、びっくりしました、はい。「ヤッターマンどうですか?」って聞かれて、いわゆるヒーローものの世界にいる自分の姿が最初は想像できなかったんですよ。僕自身はリアルタイムでは(見て)なくて再放送だったので、子どものころの、かすかな記憶の中のセリフの印象とかしかなかったんですね。ただ、クランクインする前に(オリジナルを)見返してみたんですが、今、監督がおっしゃったように僕自身に似ている部分も少なからずあると思ったし、何より面白そうだと思ったんですね。そしてクランクインする前に監督とお話しさせていただいた時に、これはすごい映画になりそうだなっていう感触を得たので、参加させていただきたいなと思いました。

なるほど。日本のアニメが海外で実写映画化される事が珍しくなくなりました。撮影中にアニメ原作のハリウッド映画を意識される事はありましたか。

監督 日本で生まれたものだから、日本のスタッフたちと一緒につくるのが一番面白いだろうなって思ってますから(きっぱり)。ハリウッドに進出をする事を考えてるわけではないので、我々が、こだわってつくったものをその人たちが見たくてしょうがない環境をつくる事の方が大事なわけであってね。「見たって分からないよ、あなたたち(ハリウッド)には」っていうくらい追求していかないと。その究極の形が「ヤッターマン」だったんですよね。媚(こ)びてないんですよ。だって「ぽちっとな」っつったって(アメリカ人は)分かんないですからね。

確かに(笑)。「メカのもと」とか。

監督 何を投げてんだろ、みたいなね。中途半端に媚びてないんで。逆に言うと(今回の)映画を見てオリジナルのアニメを見たくなる、そうなればいいなと思いますけどね。

なるほど。僕はいま30代半ばなんですが「タイムボカン」シリーズはやはり僕の世代には特別な存在なんですね。監督ご自身、オリジナルがあるアニメを実写化するのに一番こだわった点ってございますか。

監督 無いですね。アニメも小説も、すでに世の中にあるものという意味では一緒ですよね。周りの人がどう思っているかを考えるより、一ファンとして真剣につくるという事ですね。リスペクトすれば、愛情を持っていれば、要するに愛しちまえば何をしてもいいんだっていう感覚はあるんですよ。だって好きなんだもんっていう(笑)。好きになった人が何しても、好きになられた方は許すべきだと思うし。さらに好きになった人は、それをとやかく言う自由もあると思うし。ただ、どっかで分かり合えるというか。そういった意味でも、今までのどの作品よりも最も楽しくつくれましたよね。

今までの中でどの作品よりもですか。

監督 確信を持って、これは俺たちのモノだって言えるというかね。だから誰かに文句言われる筋合いは無いですよね。ただ、筋合いが無いだけに、絶対に破ってはいけないルールがあるのも事実なんです。その上で(最終的に)つくったものをタツノコプロの「ヤッターマン」のオリジナルを30年前から総監督をやっている笹川(ひろし)さんに見ていただいた時に、にっこりしながら「完璧なヤッターマンですね」と言ってくれたので、それはホントにホッとしましたね。

(櫻井さんに)最初にあのつなぎの衣装を撮影で着られた時は、いかがだったでしょうか。

櫻井 うれしかったですね。衣装直しのたびに、スタッフからいろいろなアイデアが出て何度もやり直すんですけど、その回数を経て、できた衣装は僕のサイズで、僕しか着られませんから。オリジナルの一張羅ですよね。

ヤッターマンのオーダーメイド。(笑)

櫻井 そうなんですよ。うれしかったですね(笑)。アクション用、ガンちゃん用、1号用と何着かあるんですけど、そのすべてが僕しか着られないので。(自慢っぽく)

今回の見どころとして、実物大のヤッターワンも制作されたとの事なんですが。

監督・櫻井(同時に)不便ですよ。(笑)

監督 セットに入らないんだから。大き過ぎて。中に入れるのに1回分解して、入れて、また組み直して(笑)。で、今度はセットにずっと置いておくと邪魔なんですよ。で、またばらして。本当は一部分のみつくって、後はCGでやるっていう方が予算的にも効率的にも良かったと思うんですよ。ただ、「ヤッターマン」の実写版をつくるのにヤッターワンのいない「ヤッターマン」ってないんじゃないかって。で、とりあえず作ろうよって感じになったんですね。

櫻井 結果、(実物大のヤッターワンが)作品に与えた影響っていうのはすごく大きかったですね。

あの~、どうでもいいことなんですが、それは今どこに…。

監督 全国行脚してるみたいですよ。(宣伝のため)もうすぐ渋谷の街に…。

櫻井 彼も彼で忙しいんですよ。(真剣な顔で)

監督 そう、いろんなところで迷惑かけてるんですよ。

櫻井 邪魔だなあ、これって。

監督 自分で動けないからねぇ。(笑)

櫻井 そうですよね、確かに。大変だよなぁ…。(しみじみ)

それ以外で現場の雰囲気はいかがでしたか。深田さんや生瀬さん、ケンコバさんと共演者は楽しそうな方ばかりですけど。

櫻井 実はブルーバックの撮影がかなり多くて、ドロンジョ一味とは、ほとんど撮影で会ってないんですよ。実際会ったのは3日くらい。

という事は櫻井さんも深キョンのドロンジョ様姿は生で3回くらいしか見てないんですね。

櫻井 残念ながら(笑)。だから会った時は感動しましたよ。うわー、ドロンジョ、本物だーって思いながら。まあその時、自分はヤッターマンの格好してましたけど。

僕たちと同じ意識じゃないですか。(笑)

櫻井 ほんとそうですよ。すごくうれしかったもん。(真顔)

監督 でもね、この深田恭子は国宝級ですよ。(笑)

そうなんですか。(笑)

監督 なんかね、近代にない女優感というか、まさにお宝ですよ。

すっごく楽しみです。撮影が終わって、今のお気持ちはいかかがですか。

櫻井 とにかく楽しかったですね。監督の熱がスタッフ、キャストに伝わってスケジュール的に大変だった中、ずっと高いモチベーションのまま、2カ月半の撮影を進められたというか、途中から喜びのようなものさえ感じるようになってましたね。

明日のプレミアが非常に楽しみです。

監督 全然(日本とは)文化も違う目の肥えた人たちに交じって見るっていうのは怖いけれども、すごい贅沢(ぜいたく)でもあると思うんですね。その時間を過ごす事を考えただけでわくわくします。俺が監督した作品がどうのというわけじゃなく、俺らに真剣にバシってつくらせちゃう、「ヤッターマン」っていう作品は絶対みんなを楽しませられるって、そう思っています。「ヤッターマン」のベース(自体)が毎回どーんと爆発して、それでへこたれるどころか、1週間経つとまた平気に同じようなことしてる。とんでもない話ですよね。「ヤッターマン」ってそれを日常として毎週毎週繰り返していた。特別な事を毎週やってるわけじゃなく、なんていうかあした目が覚めて、自分がそこにいるだけでシアワセなんじゃないの、楽しめるんじゃないの人生、ってそう思える作品だと思うるんですよ。だから我々もダメならダメで、まあ日本でやればいいじゃない、みたいな。(笑)

最後に見どころをそれぞれお願いします。

監督 こんなに見どころしかない映画ってめったに無いんで。なんか、前のめりに楽しんでほしいですね。シートにもたれてるヒマないですよ。ちゃんとごはん食べて来た方がいいと思います。(笑)

櫻井 あっという間の2時間になると思います。なんか楽しかったな、なんか笑ったな、なんか興奮したな、っていうそんなわくわくが残る映画だと思うので楽しんでください。

あ、最後に聞くのを忘れてたんですが、ニューヨークの印象は…。

監督・櫻井 (同時に)寒いって!(笑)

 

◎インタビューを終えて 取材中のお二人の間を流れる空気は撮影現場がどれだけ楽しかったかを想像させ、一つのものを一緒につくりあげた「仲間感」が漂っていました。「本当に大変な撮影に、皆さんよく耐えてくれたなって」と監督が話せば、「大変でないような環境づくりをしていただいてました」と櫻井さんが答えるといった感じでした。櫻井さんへの質問に撮影中のうれしかった事を聞くと、ある日、アニメのオリジナル声優陣が見学に来て懐かしいなあと、ずーっと笑っていてくれたと話してくださいました。やはり「ヤッターマン」という作品は、多くの人にとって特別なんだなと実感しました。そして、もう一つ。今回の取材を終え、編集部に戻った時に、ほぼ全員の女性社員に「どうでしたか」と聞かれました。彼の様子を聞くためだけに日ごろお出迎えなんてしないスタッフまでに帰りを待たれていました。おそるべし! 櫻井翔。取材後の心遣いからも人気の秘密が垣間見えた気がしました。

櫻井翔(さくらいしょう) 職業:俳優・歌手

1982年生まれ、東京都出身。慶応大卒。アイドルグループ嵐のメンバー。99年のデビュー曲「A・RA・SHI」以来、連続してヒットを飛ばし、昨年のオリコン年間ランキングではシングル部門売上1位と2位を獲得するなど活躍。俳優としても数々のドラマや映画に出演する一方、ニュースキャスターとして日テレビ系「NEWS ZERO」にも出演。多方面で活躍、注目されている。

三池崇史(みいけたかし) 職業:映画監督

1960年生まれ、大阪府出身。今村昌平、恩地日出夫監督らに師事。95年「新宿黒社会」で劇場映画監督デビュー。「SABU」(2002年)「着信アリ」(04年)、「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」(07年)など、ジャンルを超えた話題作を世に送り出す。ロッテルダム国際映画祭、ジェルミナーレ国際ファンタスティック映画祭など数々の国際映画祭で特別賞受賞の経験を持つ。

■映画情報 オリジナルアニメ「ヤッターマン」の実写版。同作は「タイムボカン」シリーズとして、1977年よりフジテレビ系列で放映された、タツノコプロ製作の人気アニメーション。その斬新な内容からカルト的ファンも多く、放送から31年の時を経た現在でも高い人気を誇る作品だ。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2009年2月7日号掲載)

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