忘れられないサマーキャンプ

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幅広い国や地域に暮らす仲間と出会い、日本語・日本文化を体感する
~「サマーキャンプ in ぎふ」の取り組み

「在米親子にアドバイス」日米の教育事情
米日教育交流協議会(UJEEC)・代表 丹羽筆人

地元の子どもと一緒に作ったいかだで川下り

地元の子どもと一緒に作ったいかだで川下り

「こんな気持ちは初めてだ…。」
涙を浮かべながら次男がつぶやきました。岐阜のサマーキャンプを終え、新しく出来た、でもしっかり心のつながった仲間との別れを惜しんだ晩のことです。まるで失恋したかのように肩を落とす次男が、それでもひとまわり大きく見えました。それだけ楽しい思い出を作り、仲間との交流、そして別れを経験し、参加をためらっていたことなど嘘のように仲間への想いを募らせる次男を見るにつけ、わずか10日ほどの出来事が、中学1年生にはどれだけ大きな実りをもたらしてくれるのかを改めて知りました。

長男は3回目の参加、次男は今年初めて参加させて頂きました。長男は中学生になり初めて参加した時以来の友達もおり、毎年とても楽しみにしています。次男は日本語力が弱く、小4での参加ということで大変心配していたのですが、キャンプの最終日にお迎えに行った時には、帰りたくないと言うほど、キャンプが楽しかったようです。

キャンプ後の次男は、以前は興味を持っていなかった日本語や日本文化に強い興味を見せるようになり、日本に引っ越したいと思うようにまでなりました。折り紙の本を学校から借りてきて折ったりしています。お箸もきちんと使えるようになりました。

これらは、米日教育交流協議会主催の「サマーキャンプ in ぎふ」に参加されたお子さんの保護者の方の感想文です。

幅広い国・地域で暮らし、日本語を学ぶ仲間との出会いの場

米日教育交流協議会(US-Japan Educational Exchange Council 略称:UJEEC)は、米国在住子女の日本語教育の推進および帰国後の進学を支援するために、2006年1月に設立し、今年で11年目を迎えています。

当協議会の活動の一つである「サマーキャンプ in ぎふ」は、日本で実施する海外に暮らす子ども専用の日本語・日本文化体験学習プログラムです。当協議会設立の2006年から10年間にわたり、年1~2回実施し、これまでの18回にのべ201人が参加しました。1年目の参加者数は、7月上旬から中旬に実施の第1期が2人、7月下旬から8月上旬に実施の第2期が3人というような寂しいスタートでしたが、2年目以降は徐々に増加し、4年目以降は第1期と第2期合わせて20人を超えるようになりました。(2011年と2013年は第1期のみ実施)

参加者構成は年度や実施期間によって異なりますが、平均すると女子が約52%と男子をやや上回り、小学生が約40%、中学生が約50%、高校生が10%です。参加対象は小学4年生から高校生であり、幅広い年齢層の子どもが一緒に活動することが特長です。また、米国在住者のみならず、カナダ、メキシコ、英国、アイルランド、ベルギー、トルコ、韓国、中国、香港、台湾、タイに暮らす子ども、そして日本に暮らしインターナショナルスクールやアメリカンスクールに通学している子どもも参加しました。米国在住者では、カリフォルニア州やワシントン州、ニューヨーク州、ニュージャージー州などが多いですが、全米各地に散らばっています。このように幅広い国や地域に暮らす子どもたちが出会うことができる場にもなっています。

楽しみながら日本語や日本文化に触れる多彩なプログラムの実践

里山の茶畑でのお茶摘体験

里山の茶畑でのお茶摘体験

このように幅広い国や地域から多くの子どもたちが参加するようになったことの背景には、「サマーキャンプ in ぎふ」では、海外に暮らす子どもたちが、楽しみながら日本語や日本文化を体験できる多彩なプログラムを組んで実践してきたからだと思います。地元の公立学校への体験入学、地元で実施されるイベントへの参加を通じて、日本の同年代の子どもたちと交流できるプログラム、豊かな自然に恵まれた里山でハイキングや川遊びを楽しむプログラム、日本の自然を活かした食文化や昔から継承されている伝統文化に触れることのできるプログラムなどのほか、日本で生活したり、日本人と接したりする際に必要な日本語やマナーを修得できるような指導も行っています。

ここで今年の「サマーキャンプ in ぎふ」で実施予定の主なプログラムをご紹介します。

◆学校体験:地元の公立中学校・高等学校で、日本の学校の授業や掃除や給食などの学校生活を体験します。同年代の日本の子どもたちとの交流によって、生きた日本語に触れることができます。(第1期のみ)

◆地域交流体験:地元で行われているイベントや諸活動に一緒に参加します。これらの活動を通じて、生きた日本語に触れることができます。第1期では「和太鼓」の練習に参加して交流し、第2期では地元の子どもたちとともに「いかだ」を作り、川下りを体験します。

◆地域生活体験:地元民家でのホームステイは、そこに暮らす人々の心のあたたかさを感じる場であるとともに、日本の家庭の日常生活を経験する絶好の機会となります。また、日本語でたくさん話をすることもできます。ホストファミリーと過ごした週末は楽しい思い出として心に残るでしょう。

◆古民家生活体験:所有者の方が手入れし大切にされている築100年の古民家「とっさの家」で田舎暮らしを体験します。薪割りをしてかまどを使ってご飯を炊いたり、五右衛門風呂に入ったり、古民家に隣接する山や川で遊んだりします。源流に近いため、川の水は美しく、夏でも冷たく感じられるほどです。

◆伝統文化体験:日本の伝統工芸(わら細工、竹細工、和紙工芸、草木染め、機織り、木工など)の製作や食づくりを通してものをつくる喜びを味わいます。自然の素材を利用した手作りの製品や食事のあたたかさときめ細かさを肌で感じることによって、日本人が古来より代々伝えてきた伝統文化のすばらしさと奥深さを理解することができます。そして、命や物を大切にする心を育みます。

◆農業体験:里山で栽培されている作物の収穫やその準備作業に携わることによって、昔から受け継がれている日本人の生活を感じます。また、作業を教えてくれる地元に暮らす人々と触れ合うことによって日本人の温かさも感じることができます。

◆自然体験:緑豊かな山道を散策するハイキング、さわやかな清流で楽しむ川遊びなどを通じて、日本の自然を味わいます。ハイキングでは、新鮮な空気を満喫しながらバードウォッチングや植物・昆虫採集なども楽しめます。川遊びでは、美しい川での水遊び やBBQも楽しめます。

◆寺院体験:地元の人々の生活に密着している寺院で読経、座禅、習字などを体験します。自分自身を静かに見つめる時間は、今後の人生にとって貴重な体験になるでしょう。 また、ここでの生活を通じて、様々な礼儀や作法を学ぶことができます。

◆史跡・地場産業見学:岐阜県下に多数ある史跡・名所を訪れます。訪問の候補地は、山県市内の史跡の他、岐阜城とその城下町などです。また、地元の工業施設など、現代のものつくりの現場を見学し、伝統産業や地元の資源との関係なども学びます。

「サマーキャンプ in ぎふ 2016」は、参加者の申し込みを受け付けています。詳細は、米日教育交流協議会のウェブサイトwww.ujeec.orgをご覧ください。

丹羽筆人【執筆者】にわ・ふでひと 河合塾在職後に渡米し、北米の補習校・学習塾講師を歴任。現在は、「米日教育交流協議会(UJEEC)」の代表として、「サマー・キャンプ in ぎふ」の企画・運営、河合塾海外帰国生コース、文京学院大学女子中学校・高等学校、名古屋国際中学校・高等学校、名古屋商科大学の北米担当などを務める。他にデトロイト補習授業校講師(教務主任兼進路指導担当)
◆米日教育交流協議会(UJEEC
Phone:1-248-346-3818
Website:www.ujeec.org

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