〈コラム〉もったいないから捨てる

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倫理研究所理事​長・丸山敏秋「風のゆくえ」 第82回

「断捨離(だんしゃり)」とはクラターコンサルタントのやましたひでこ(山下英子)さんの登録商標だという。クラターコンサルタントとは断捨離のコンサルタントのことで、これも彼女の登録商標だという。

やましたさんは学生時代にヨーガの行法である断(いらない物が入るのを断つ)・捨(ため込んであるいらない物を捨てる)・離(物への執着から離れる)を学んで、自身の片付けに応用した。「もったいない」という観念に凝り固まった心を解き放ち、身軽で快適な生活と人生を手に入れることが、断捨離の目的だという。ゆえに普通の整理整頓や片付けとは違う。

まだ役立つ物なのに無駄にしては惜しいという気持ちを、日本人は「もったいない」とよく言葉に出す。英語のwastefulとはちょっと違う。「もったいない」を世界の合い言葉にしようと提案したのは、環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア人女性ワンガリ・マータイさんだった。

たしかに物を大事にする行為は尊い。たとえば日本の年間の食品廃棄量は、消費全体の3割にあたる約2800万トンもある。そのうち、売れ残りや食べ残しなど、本来食べられたはずの「食品ロス」は約632万トンにもなるという。これはいかにも、もったいない。

他方、「もったいない」の思いが行き過ぎると、物を捨てることができなくなり、家や職場にため込んでしまう。「もったいない」と思う心に、できるだけ多くの物を持ち、持ちつづけるのが幸せの条件だという所有欲が潜んでいるならば、本末転倒になってしまう。

実は物も、生物と同じように生きている。生命現象は認められないにしても、あらゆる物が「働き」を有している。人間が製造した物にはもちろん性能がある。自然物の岩でも山でも、その形態を保つ働きがあるから存在している。そうした働きを広い意味で生命と言ってもよいではないか。

となると、物の持てる働きを発揮させず、どこかに長期間しまい込んでおくと、ナマ物と同じように腐って臭気を放ち、場の空気が汚れるであろう。そうした物はどんどん捨てるに越したことはない。

捨てるときには、ただゴミにするのでなく、欲しい人にあげたり、リサイクルに回すなど、活かして捨てる。いちど点検してみてほしい。家や職場に、使わずに眠っている物がどれほどあることか。なんともったいないことか。ある経営者が社内で使っていない物を集めたところ、トラック数台分もあったという。

捨てるときにはコツがある。それは、「迷ったら捨てる」こと。いつか使うのではないかと思って、結局は捨てられなかったのだ。使うかどうかと迷ったら、あっさりと捨ててしまう。

付け加えておくと、本当に大切な物まであえて捨てることはない。人間は物ではないが、長年連れ添ってきた妻を、捨てたいけれどもどうしようかと迷ったのならば、捨てない方がよい。大切な存在だということを、忘れかけているにすぎないからだ。あまり迷っていると、夫の方があっさり捨てられてしまうだろう。

(次回は2月第2週号掲載)

丸山敏秋

〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)、『「いのち」の輝き』(新世書房)など多数。

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