〈コラム〉写真・映像の無断使用と提訴権

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礒合法律事務所「法律相談室」

ニューヨーク州では判例法では個人のプライバシー権は認められていませんが、ニューヨーク州公民権法(制定法)により個人の名前、写真、画像、映像等(以下集合的に「対象物」)が当人の書面による許可無く(販売助長目的等の)営利目的で第三者に使用された場合、その個人は無断使用した者を提訴する権利が与えられています。典型的な例としては楽器販売会社がミュージシャンの写真を無断でカタログに掲載し、あたかもそのミュージシャンがその楽器を使用している、又は推奨している、という印象を与え、販売を促進するものが挙げられます。広く知られた俳優やモデル等の場合、第三者の「営利目的」の写真の無許可での使用を証明することは比較的容易ですが、「被害者」が一般市民の場合、提訴要因である「営利目的」の証明は難しくなります。
この「営利目的」の箇所に関し、ニューヨーク州では2つの例外が存在します。1つ目は対象物の使用目的が「公共の関心事」の描写、つまり、ニュースとしての価値のあるものの描写である場合、例え無許可で使用された場合でも、提訴権は認められません。描写されたものがニュースとしての価値があるか否かの判断は、陪審員ではなく、裁判所に委ねられます。ニューヨーク州の裁判所は非常に寛容的に「ニュースとしての価値」を見出します。例えば、医療ドキュメンタリー番組内で個人(患者)の他人と共有したくない映像が使用された場合、裁判所は通常は「医療の現場という公共の関心事を伝えるという目的であり、よってその個人は提訴する権利を持たない」と判断します。また早朝の火事の現場で半裸の状態でたたずむ不倫関係にある人達の映像も「視聴者を増やすための営利目的」ではなく、「火事というニュースを伝える目的」と見なす傾向にあります。つまり対象物の無許可の使用に伴う個人の「ばつの悪さ」や「不都合」の度合いはどうでもよく、世間の関心事の描写の一環としての使用である限り、提訴権は認められない、という解釈です。
「営利目的」の2つ目の例外として対象物の使用が「付随的」な場合も、提訴権は認められません。つまり対象物の使用が結果的に使用者のビジネス促進につながったにせよ、その使用が描写された物全体の主な目的でではなく、「たまたま映った」程度である場合、裁判所は提訴件を認めません。通常裁判所はこの2つ目の例外により、許可無く映った個人の映像箇所等が数秒程度や比較的短い場合、「対象物の提示がメイン目的ではない」と見なし、提訴件を認めません。ちなみに対象となる写真、画像、映像が、通常はプライバシー権が存在しないとされる公共の場での「盗撮」であった場合でも、前述の法の適用に変わりはありません。つまり盗撮という事実が提訴希望者に優位に働くことはありません。
(弁護士 礒合俊典)

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(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は11月第3週号掲載)
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