〈コラム〉ラグビー精神に学ぶ

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倫理研究所理事​長・丸山敏秋「風のゆくえ」 第59回

昨年の9月19日、ラグビー・ワールドカップで日本代表は南アフリカ代表に歴史的勝利をおさめた。なにしろ南アフリカは過去二度の優勝経験があり、オーストラリアとイングランドとニュージーランドにしか負けたことがない。そんな世界ランキング3位の強豪を相手に、日本チームは一歩も引かない戦いぶりで勝利を手にしたのだ。

日本代表のヘッドコーチをつとめていたエディー・ジョーンズ氏は、「いま、歴史は変わった」と冷静に宣言したという。奇しくもその日、筆者は高校のラグビー部のOB会に出席し、旧交を温めていた。それだけに翌日のニュースで快挙を知るや、しばらく興奮が冷めやらなかった。

ご存知かどうか、ラグビーとは15人が力を合わせ、キックやパスを使ってボールを相手のインゴールまで運んで得点する陣取りゲームである。イングランドに発祥し、正式には「ラグビーフットボール」と呼ばれるように、フットボール(現在のサッカー)から分かれて誕生した。ルールはなかなか複雑だが、観ていればすぐに慣れる。

ラグビーの魅力は「多様性」だと言われるが、その通りだと思う。さまざまな特徴を持った選手が、同じフィールドでプレーする。2メートル級の長身、100キロを超える巨漢もいれば、160センチメートル足らずで60キロにも満たない小兵もいる。変幻自在の動きを得意とする者もいれば、猪突猛進型もいる。足が速い、キックが上手い、タックルが果敢……。そんな多種多様な個性が共存しつつ、互いの特徴を活かし合い、補い合いながら、チームという組織の一員として共に戦う。まさに社会の縮図ではないか。

ラグビーの魅力はまだある。どんな天候でも、試合が中止になることはまずない。肉弾戦だけでなく、デリケートな頭脳作戦が功を奏する場面が多々ある。なによりもボールが楕円形なのが面白い。どこに転がるか分からないようで、実はちゃんと転がり方には規則がある。そして、試合終了のホイッスルが鳴れば、それまで戦った敵も味方もなく、この競技を愛する者同士が互いの健闘を称えあう。それを「ノーサイドの精神」という。

ちなみに筆者は高校時代にいくつかのポジションを経験したが、最後はフルバックだった。入部した頃は鈍足だったのに、猛練習でだんだん速くなった。不器用だったのに、いつしかキックが正確に飛ぶようになった。五郎丸選手のような仕草はしなかったが、トライのあとのゴールも受け持った。遠距離からゴールが決まった快感は、何物にも代えがたい。

元フランス代表の名キャプテンだったジャン・ピエール・リーブの名言がある。― ―「ラグビーは少年を最も早く大人に変貌させ、大人に永遠に少年の魂を抱かせる。私がラグビーから学んだことは、人を制圧することではなく、人と共に生きることだ。だから、ラグビーは素晴らしい」。

ワールドカップで日本が奇跡を起こしてから、国内で一気にラグビーブームが巻き起こった。ぜひともラグビーというスポーツの魅力をもっと知ってほしい。そして世の中のリーダーには、組織のあり方をラグビー精神から学んでもらいたい。

(次回は3月第2週号掲載)

丸山敏秋

〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)、『今日もきっといいことがある』(新世書房)など多数。

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