藤原竜也/勝地涼

0

NYでやる意味はとても重い(藤原)
未来に残る作品に出られ幸せ(勝地)

「ガチ!」BOUT.72.73

ことし4月に亡くなった作家・井上ひさしさんの戯曲「ムサシ」(演出・蜷川幸雄)の公演が今月7日、ニューヨークのリンカーンセンターで行なわれた。宮本武蔵を演じた藤原竜也さんと、永遠のライバル、佐々木小次郎を演じた勝地涼さんにお話を伺った。(取材日:7月6日)(聞き手・高橋克明)

 

蜷川幸雄演出「ムサシ」NY公演

いよいよ明日、初日を迎えるわけですが、お二人とも緊張というより、リラックスされているように見えます。

藤原 いやぁ、もちろん緊張はしてますよ。このニューヨークの地で、日本文化というものを持ってきて挑むわけですから。どういう評価が出るのかプレッシャーも感じてるし、恐怖も感じてます。ただ、僕たちが今までやってきたことを考えると多少の事ではブレないだろうな、という自信もありますね。

特に勝地さんは今回NYでの講演が(日本のときとは違って)初めてのキャスティングです。

勝地 去年、(「ムサシ」の舞台を)見に行った立場でしたからね。そこに実際に自分が入っていくという事に正直、不安はありました。でも蜷川さんをはじめ、竜也君も周りのスタッフも(前回の舞台を)続けるのではなく、新しいものを作るんだって、しきりに言ってくださったのでだいぶ助かりましたね。

お互い共演が決まった時のそれぞれの印象を聞かせてください。

藤原 そうですね、僕はカンパニーではずっと下の立場でしたから、いつの間にか勝地のような、こう、勢いのある後輩が出てきたんだなあって感じですね。こうやって時代は変わっていくんだなって。(笑)

勝地 正直うれしかったです。僕が初めて舞台を見させてもらったのが(藤原の代表作の)「身毒丸」で、それを見て僕も舞台に立ちたいと思ったので。そう思わせてくださった蜷川さんと、竜也さんと…。

藤原 (笑)

勝地 いや、本当なんですよ。

藤原 本当かよ。(笑)

実際に舞台に立たれてお互いの印象って変わりましたか。

藤原 僕は変わりましたね。勝地っていう役者はすごくストイックで、その集中力は舞台上ですごく研ぎ澄まされた刃物のように感じる事もあって、ときにそれがやっかいにもなるんですけど、それはそのまま武蔵と小次郎であると思うし、うん、一緒にやっていて救われますね。

ということで、勝地さん大絶賛ですけども。

藤原 大絶賛はしてないけどね。(笑)

勝地 (笑)。ロンドンの時かな。冒頭から竜也君と向き合うシーンで、頭が真っ白になるくらい、何かうまく言えないですけど、「生きてる」って気持ちになれたんですね。すべてを受け止める芝居をしてくれる人だなって感じました。

今回は井上ひさしさんの遺作ということですが。

藤原 そうですね…。そして、また井上先生本人が強く望んだニューヨーク(公演)ですから。そしてなおかつ生前いろんな作品で語ってらっしゃった「死ぬな、生きろ」っていうメッセージがこの「ムサシ」は特に強い作品ですからね。その先生の遺作をこのアメリカで、ニューヨークでやるという意味はとても重いと思っています。

勝地 でも、作品って残るものだし、これからもどんどん未来に伝わっていきますよね。やはり、この作品に出るのは僕にとって幸せな事ですね。

藤原 (指で眼鏡を作って)“勝地さんはいいですねぇ、やんちゃでぇ”。

勝地 あははは、誰ですか、それ。

藤原 え、(井上)先生のモノマネ。(笑)

蜷川先生はお二人にとってどんなお方ですか。

藤原 リーダーですね。演劇で世界を動かしていこうと強く思ってる人だし、ニューヨークでやる意味を僕たち以上に強く持ってらっしゃるので、僕たちはついていくだけです。

勝地 あれだけの方なのに今でも、もっと上にいけるはず、もっと何かできるはずと常に考えてらっしゃるのがこちらまで伝わってきます。自分なんか若いくせに、もっと俺も頑張んなきゃってすごく前向きにさせてくださる方です。

最後にお二人にとって「ニューヨーク」といえば何を連想されますか。

藤原 …セントラルパーク?

勝地 (笑)

藤原 …あとは、ホットドッグ?

3年前のインタビューでもそうおっしゃってました。(笑)

藤原 そう(笑)。やっぱ、それだな、俺は。

勝地 それにあこがれて、昨日、買って食いました。街を歩きながら。

藤原 うまいよな。

勝地 うまいです。(笑)

 

「ムサシ」の一場面(左から)勝地涼さんと藤原竜也さん=7日、リンカーンセンター(写真:上西)

「ムサシ」の一場面(左から)勝地涼さんと藤原竜也さん=7日、リンカーンセンター(写真:上西)

◎インタビューを終えて
7月10日、地元NYタイムズ、NYポストからも絶賛され、大好評のうち、幕を閉じた「ムサシ」。「復讐(ふくしゅう)の連鎖をいかに断ち切るか」を主題に掲げたこの作品はニューヨーカーにとっても考えさせられるテーマとな りました。その華奢(きゃしゃ)な体からは想像もつかないほど骨太な武蔵と小次郎を演じた藤原さんと勝地さん。また彼らの演技を(できるならば蜷川作品で)このニューヨークで見たいと思いました。

 

藤原竜也

藤原竜也(ふじわら たつや)職業:俳優
1997年「身毒丸」で初舞台を踏む。以後「ハムレット」「近代能楽集」など数々の蜷川演出舞台に出演。映像でも活躍している。2004年には紀伊國屋演劇賞個人賞、朝日舞台芸術賞寺山修司賞、読売演劇賞優秀男優賞・杉村春子賞など、数々の賞を受賞。

 

勝地涼

勝地涼(かつじ りょう)職業:俳優
2005年「亡国のイージス」で第29回日本アカデミー賞新人賞を受賞。ほか多くのヒット作に出演。舞台出演作品は「シブヤから遠く離れて」「キッチン」「カリギュラ」ほか。2010年夏には小栗旬初監督映画「シュアリー・サムデイ」が公開予定。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2010年7月17日号掲載)

Share.