〈インタビュー〉歌手 グレッグ・アーウィンさん

0

童謡・唱歌100曲以上を英訳、CDもリリース

青い瞳の〝童謡の伝道師〟が伝える日本

_AAA6513 日本の童謡・唱歌100曲以上を自らの視点で英訳し、日本各地でコンサート活動を行う歌手のグレッグ・アーウィンさん。2002年には、日本童謡協会から「童謡文化賞」を受賞するなど、その活躍は高く評価されている。そんな“童謡の伝道師”の異名を持つグレッグさんに、日本という国との出合い、童謡歌手としての活動についてお話を伺った。
日本人との出会い
幼少時代、エンターテインメントに魅了され、ニューヨークに強い憧れを持っていたグレッグさん。海も山もないウィスコンシン州の田舎町で育ち、山を初めて見たのは16歳、海を初めて見たのは18歳の時。そんなグレッグさんが、1万キロ以上離れた異国、日本とつながったのは1980年代、大学4年生の時だった。
友人に誘われて数カ月滞在したハワイで、日本人に初めて会い、そのいでたちとにじみ出る優しさに“フォーリンラブ”(恋)したという。持ち前のフレンドリーな性格で次々と友達の輪が広がり、多くの日本人との出会いがグレッグさんのその後の人生に大きな影響を与えた。
26歳の時、満を持して日本へ1年間のホームステイに旅立った。そこでの出会いと経験がすばらしく、真剣に日本について知りたいと思い、帰国後、ハワイ大学で日本語学部を専攻。卒業後はハワイの日本語ラジオ局のディスクジョッキーや演歌歌手として活動、グレッグさんと日本のつながりはさらに深まっていった。
童謡歌手としての歩み
ハワイでの出会いと経験を元に再来日した際、飲み屋で酔っぱらいが歌っていた「ふるさと」が童謡との初めての出合いだったと笑う。
そのメロディーにひかれ、日本の芸能事務所に在籍した彼は童謡歌手としての活動を始めた。しかし、当時は「♬十五で姐やは嫁に行き♪〜」(「赤とんぼ」)など、童謡の世界観自体が分かりづらく、辞書を引いても意味が分からないことが多かった。表面上だけでなく、日本の文化と歴史を勉強することで、童謡が持つ優しさや意味を知り、英訳することを試みることになったという。
ハワイでの経験、ホストファミリーとの出会い、童謡歌手としての活動の中から、日本人の思いやり、心遣い、優しい心、美しいわびとさび、日本の良いところをたくさん知ったからこそより童謡が好きになった。
「私が童謡を歌う時に、みんながそういう(自分が感じたような)気持ちになる気がする」
米国には童謡のような音楽がない。英語にすると“Children Song”。しかし、童謡は子供の歌というよりも、大人が子供時代を思い出すための歌が多い。また、米国には季節を歌った歌は、クリスマスソングぐらいだが、日本には滝廉太郎の「♬春のうららの隅田川♪〜」(「春」)のようにすてきな童謡がたくさんある、とグレッグさんは歌って紹介してくれた。
自分ができること
現在、芸能事務所から独立して日本全国でのコンサートや講演会を精力的に行っている。童謡歌手としての活動とともに、才能の分野はさらに広がり、テレビ、ラジオ、舞台、声優、司会などマルチ・タレントとして活躍する。ナレーターとしてのキャリアも長く、テレビCMやゲームソフトなどで広がりのある“ヒーリングボイス”を披露している。着ボイス「You Got Mail」や、パナソニックのCMの最後に入っていた「Ideas for life」など、グレッグさんの声を知らず知らずに耳にしたことがある人も多いだろう。
在日27年。永住権も獲得した今でも、年に一度は肉親が住むウィスコンシン州に帰省し、幼少時に憧れたニューヨークに定期的に旅行で訪れる。「♬みかんの花が咲いている♪〜」(「みかんの花咲く丘」)が書かれた家跡に建つ伊豆と東京に住まいを持ち、パートナーと愛犬と幸せに暮らすグレッグさん。
「日本人は東日本大震災に遭い、それを機に動いた政治に心が沈んでうんざりしている。元気がなくなっていると感じるので、童謡を通して、自分ができることを発信し続けたい」と話す。
あまりにも当たり前過ぎて、日本人も忘れかけている日本の心を青い瞳の“童謡の伝道師”が私たちに伝えてくれる。
グレッグさんが英訳した「ふるさと」
My Country Home
Back in the mountains I knew as a child
Fish filled the rivers and rabbits ran wild
Memories, I carry these, wherever I may roam
I hear it calling me, my country home
Mother and Father, how I miss you now
How are my friends I lost touch with somehow?
When the rain falls or the wind blows
I feel so alone
I hear it calling me, my country home
I’ve got a dream and it keeps me away
When it comes true, I’ll go back there someday
Crystal waters, mighty mountains
Shining like an emerald stone
I hear it calling me, my country home
(「WEEKLY Biz」2014年3月15日号掲載)

〈プロフィル〉 Greg Irwin 米国出身、東京在住のシンガーソングライター。日本の童謡・唱歌を自らの視点で英訳し、その数は100曲以上を数える。日本各地でコンサート・講演などを行うほか、テレビ・ラジオ・声優・司会など、幅広く活動を行いながら童謡の伝達をライフワークとする。日本童謡協会「童謡文化賞」を受賞。現在、amazon.jpで、歌って覚える英会話「SING ENGLISH !」や、日本の童謡を英訳して歌う「Gentle Heart-Songs of Japan」が好評発売中。公式サイト:www.gregirwin.com/

Share.