〈コラム〉“Sue York, Sue York”

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礒合法律事務所「法律相談室」

最近カリフォルニア州に住む男性が大手ファーストフードチェーン店を相手取り150万ドル(約1億2000万円)の損害賠償を求めた訴訟を起こしたと話題になりました。「コーヒーが熱すぎた」事実はなく、「すべって転倒し、怪我をした」事実もなく、提訴理由は商品購入後にナプキンが1枚しか入っておらず、追加の要求をしたところ拒否され、さらには人種差別的な発言をされた、というものです。損害賠償請求の根拠として仕事に出かけることができない程の精神的苦痛(怒り)を挙げており、150万ドルの賠償金を受理すれば「少しは楽になる」であろうとのことです。
カリフォルニア州から2500マイルほど離れたニューヨーク市は昔から「Tough City」と呼ばれ、同時に民事訴訟の提訴数の多さから「Sue City」とも呼ばれています。ニューヨーク州では提訴の際に、裁判所規則により法的根拠及び用例がない場合、現存する法律に関連した合理的な議論が不可能な場合、または訴訟の目的が他の訴訟の問題解決を遅らせる、もしくは他人へ損害を発生させることが第一目的な場合、その提訴は「軽薄訴訟(frivolous lawsuits)」と呼ばれます。州の判例法により軽薄訴訟は禁止されており、提訴事実に法的価値がなく、軽薄であるとみなされた場合、提訴者には相手(被害者)への諸経費、法的対処に発生した弁護士費用等の罰金が科せられます。ニューヨーク市では軽薄訴訟のレベルまでは達しないが、常識的には信じ難い多くの民事訴訟が存在します。
例えば、2010年にはニューヨーク市で4歳9カ月と5歳の子供が自転車で遊んでいる最中に87歳の女性にぶつかり、怪我を負わせてしまった結果、この87歳の女性に一般過失で提訴されています。ニューヨークの判例では4歳「以下」の子供には過失能力がないとされています。提訴の対象となった子供は4歳以上であったために訴訟は軽薄とはされませんでした。また11年には290パウンド(約131キロ)の64歳の男性が某ファストフードチェーン店のブースが狭すぎたために足を痛めたという理由で同店を民事提訴しています。彼の提訴根拠は狭いブースは肥満の人の公民権の侵害にあたるという、290パウンドの重さを障害と前提とした訴訟でした。また、12年にはニューヨーク市で82歳の女性が、自身の行き慣れた店に買い物に行った際に、目先のツナ缶をとろうと手を伸ばした際に缶が倒れ、顔に当たり、鼻を怪我し、その後、外傷を理由に35万ドルの損害賠償支払いを求め同店を提訴しています。また同年には220パウンド(約100キロ)の学校教員(男性)が小学1年生の50パウンド(約22キロ)の児童に強襲され、怪我を負ったという理由で、凶暴だと分かりつつ何もしなかったという理由で学校を提訴しています。言うまでもなく公立学校が被告の場合、損害賠償金の支払いは市民の税金から行われます。
(弁護士 礒合俊典)

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(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は4月第3週号掲載)


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