〈コラム〉レストランビジネス取引の注意点

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礒合法律事務所「法律相談室」

世界各国から人が集まるニューヨーク(市)には様々な食を提供するレストランが2万軒近くあるとされています。毎年1000店舗以上のレストランがオープンし、その大半が数年以内に経営破綻に陥るともいわれます。
ニューヨークではレストランビジネスの売却・購入は二通りの方法で行われます。一つ目はレストラン所有者の全株の売却(株式会社の場合)による会社組織そのものの売却です。シンプルですが、この方法でのビジネス取引の場合、会社組織を丸々引き継ぐ事になり、新所有者には前所有者の経営に派生する「全て」の賠償責任も引き継ぐこととなります。この賠償責任(liability)は会社組織の売却の時点で取引当事者が全く認識していない「未知」の賠償責任も含まれます。この懸念から、ニューヨークでは通常は二つ目の取引方法である資産売却契約(asset purchase / bulk sale agreement)によるレストランビジネスの売却が主流です。これは株式の譲渡等による会社そのものの売却ではなく、経営者である会社のレストランビジネスという一つの「資産」のみを第三者へ売却する方法です。その資産にはレストラン店舗の商業物件賃貸契約権、敷地内の様々な器具、ビジネスの評判(goodwill)等も含まれます。資産売却契約には譲渡・売却対象の資産を具体的に規定し、それらへの具体的支払金額(賃貸契約の譲渡へ50万ドル、器具へ5000ドル等)が明記される必要があります。器具等の有形固定資産 (tangible property)には販売税(sales tax)が発生し、購入者へ支払い義務があるために、各譲渡対象物への価値・支払額への決定には十分な考慮が必要です。
尚この資産売却によるレストラン売却の場合、会社組織そのものの引き継ぎによる売却と異なり、現経営者への既存する賠償責任及び未知の賠償責任が購入者へ自動的に譲渡される事はありません。但し注意点として、契約規定の有無に関係なく、現経営者が消費者から徴収、支払う義務のある販売税が存在する場合、それらの滞納・未払金は取引成立日(closing date)後に新経営者・資産購入者へ支払い義務が移ります。このため州の税務局から現経営者には販売税の滞納・未払金が通知を受理してからの取引成立が望ましいですが、最近の税務局は以前と比べ通知を発行するのに数カ月も要する場合があります。通知の発行を待たずに取引を進める場合、現所有者に販売税の滞納・未払金がある場合を考慮し、購入者は支払い金から一定額を第三者(通常は資産購入者の弁護士)へ預け、最終的に販売税の滞納・未払金が存在しないという通知の受理後に保管金を売却者に支払うか、具体的な滞納金額が通知に記されている場合、その保管金から支払いを行い、残金を売却者へ支払うという形を取ります。
(弁護士 礒合俊典)

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(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は8月第3週号掲載)
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