集夢計画13「1枚のTシャツからドラマが始まる(1)」

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アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第17回

初めて買ってくれたTシャツを持った李雪治と著者(右)

初めて買ってくれたTシャツを持った李雪治と著者(右)

集夢計画のTシャツを初めて買ってくれた李雪治(スージー・リー)は、台湾から米国に来て40年、片足が不自由で杖を使っているにもかかわらず活動的な女性です。彼女の「命は拾ったもの」といった言葉が耳から離れず、詳しく話を聞くために今月初めに再会しました。

「あなた、Tシャツを売っているアーティストでは」とイベントの帰り道に声を掛けられたのがちょうど2年前。「確かに私はアーティスト、でもTシャツを売っているアーティストではないです(Tシャツを売るのは手段であって、目的ではないのですから)」。彼女は、私のことを新聞で知り、いつか応援しようと思っていたと早口で言い、「とにかく1枚売って」とぶっきらぼうに言いました。何とせっかちな人だろうと思いながら、住所を聞いて別れ、Tシャツと資料を送った翌週、彼女から1000ドルのチェックが送られてきました。間違いではないかと思い連絡すると、「定年までのあと数年は働くし、裕福ではないけれど、一人暮らしの生活に不自由はないので、応援と思って資金に使って」と言われました。

彼女は小さい頃から体が弱く、中学時代には数カ月病院生活を送ったそうです。米国に来て間もない頃、バスルームで倒れて意識不明となり、幸い意識が戻ったので自分で救急車を呼び病院に運ばれました。調べてみると脳梗塞、倒れたショックで足を骨折し、ドクターからは「意識が戻らなかったらそのまま死んでいましたね」と言われたそうです。数年後、子宮癌の手術をし、杖をつく原因となった交通事故にも遭いました。複雑骨折で片足の骨が短くなり、以来、杖をつく生活となったのだそうです。「何度も死にかけ、その度に戻ってきました。私の命は拾ったようなもの。運命には使用権はあるけれど所有権はない、そうは思いませんか?」 (続く)

(次回は10月15日号掲載)

林世宝

〈プロフィル〉リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック

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