〈コラム〉雇用維持と採用促進策「部下に刮目(2)」

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人手不足(12)

「HR人事マネジメント Q&A」第24回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗

前回=3月25日号掲載=の記事では、部下も一個の人間である限りお金も欲しければキャリアも積みたい、更には居心地よい(だけの)今の職場のままで良いのかとも煩悶している筈、それ故、上下間の信頼関係がたとえ盤石に違いないと思ってもそれが単なる自身の思い込みではないのかと、現状を機に今こそ上司のあなた自身が自省するべきと締めくくりました。

もちろん自省段階で収めず、上司として、部下達が如何なる懸案や不満を抱えているかを知り、彼彼女達の(内々の)転職活動を思い留まらせるよう施策を講じるまでに歩を進める方が上策ではあります。

このような場面での解明策の一つとして企業間では「従業員意識調査」なるものが知られており、事実、米系有名企業や大手日系企業ではこぞって取り入れられているのが実情です。こちら米国ではEmployee Climate SurveyあるいはEmployee Satisfaction SurveyやEmployee Engagement Surveyと呼ばれ、日本だと「従業員アンケート」や「従業員満足度調査」との言葉が当てはまりましょうか。この「従業員意識調査」は1回の実施で完遂する類ではなく、米系企業などは従業員が抱える問題や悩みを最も妥当に且つ正確に知る手段として毎年のように焦点を変え設問内容を変えて実施しているほどです。

例を紹介しますと、「転職を考える理由」の調査では、或る会社側が予測した上位二つは「より良い福利厚生プラン(28%)」「より良いキャリアアップの機会(28%)」でしたが、会社側の予想に反して従業員側の上位二つが「より良い報酬(53%)」と「節度あるワークライフバランス(42%)」でした。

また「大退職時代に多くの同僚が離職したあとに残った社員」を対象にした或る広域調査では、従業員の55%が「自身の給与額を疑問視」・52%が「より多くの職務と責任を抱えることになった」と回答、これ以外に「職務を遂行するのに苦労している(30%)」「孤独・孤立を感じる(28%)」「組織への忠誠心が低下(27%)」でした。

会社上層部の思い込みと従業員側の悩みが異なると分かることこそが同調査を行う意義または価値ともいえますが、果たして上司である皆さんの思い込みは的を射ているでしょうか。そしてここ数年のパンデミックで暮らし向きや働き方に対する考え方が大きく変わってしまったものの、これが収まってきた今は部下の考え方に如何な変化が現れているかを新たに調査してみるべき時だとも申しておきます。

唯、同調査がこれほど認知されているならば小中規模の企業にまで広く普及しているだろうと思われがちですが実際はそうなっておらず、その最大の原因は意識調査に答えたからには効果がある筈と従業員側が思い込むのを厄介視する会社側が実施に及び腰な為であり、意識調査の導入が延いては「従業員側の悩みが解決する」「要望が通る」ものと過度に期待されては困るというもの。それ故、実施には注意と工夫が伴わねばなりません。

(次回=5月27日号掲載=に続く)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう  富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

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