〈コラム〉総力戦で挑む

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倫理研究所理事​長・丸山敏秋「風のゆくえ」 第104回

ラグビーのワールドカップで日本代表が大健闘したことから、にわかラグビーファンが激増した。高校時代に部活で2年以上もラグビー漬けになった筆者には、このスポーツが日本中を熱狂の渦に巻き込むなど、信じられない思いだった。

とくに強豪アイルランドやスコットランドを相手に勝利したときには、「奇跡の大金星」「まさかの番狂わせ」と、驚嘆の言葉が新聞やネット報道に踊った。スポーツの試合などで、大方の予想を覆して格上の相手から勝利をもぎ取ることを、英語で「ジャイアントキリング(giant killing)」と言うのだともはじめて知った。

私事で恐縮だが、「どうして高校でラグビー部に入ったの?」とよく尋ねられた。中学校ではバスケットボール部だったが、レギュラーは5人しか選ばれない。ラグビーならば15人と3倍も多いので、補欠の悔しさを味わわなくて済むだろう。そんな情けない理由なのだが、恐ろしくハードな練習を積むうちに、15人というチーム構成の素晴らしさを知るようになった。

ラグビーチームの15人は、体格も技能も走力も運動量も、さまざまに違うプレーヤーが集合している。まるで世の中の縮図のようだ。この集団の結束力が、強さの秘訣となる。

サッカーや野球や他のスポーツでは、よくスタープレーヤーが生まれる。しかしラグビー界のスターは誰かと問われて、すぐに名前が出てくるだろうか。ネイマールやイチローのようなビッグネームはほとんどない。個人の能力よりも集団の力を重んじるのが、ラグビーの真骨頂である。試合でトライを重ねて目立つプレーヤーはいても、そのトライは全員の働きから生まれたものにほかならない。

さらに言えば、15人はそれぞれのポジションでの役割がきっちり決まっている。しかしあの肉弾戦の中で、密集に巻き込まれたり、倒れたりする者が出ると、別の者が即座に役割を代わらなければならない。自分の役割だけをこなせばよいわけではないのだ。つねに総力戦であるのも、ラグビーの魅力の一つである。

企業集団も同様ではないか。病気や不慮の出来事で欠員ができたら、すぐに穴埋めしないと仕事が成り立たない。それには日頃から他のチームメートの働きを熟知し、いざという時には進んで代役を果たす気構えが求められる。

どう転がるかわからない楕円型のボールを使うのも、ラグビーの魅力だとよく言われる。しかしこれは未経験者の認識で、練習を積めば、楕円球の転がり方はほぼ間違いなくわかる。円球でも回転をかければ曲がるし、イレギュラーにバウンドすることもある。

仕事も人生も、経験を積み重ねた人は、先が読めるようになる。と同時に、何が起こるかわからないこともわきまえるようになるものだ。

それにしてもラグビー日本代表は、ワールドカップに出るたびに強くなった。その陰には、選手たちを支えて一緒に奮闘した多くの関係者やファンがいたことに思いを馳せたい。

(次回は12月第2週号掲載)

〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)、『ともに生きる』(倫理研究所)など多数。

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