〈コラム〉規制の強化と緩和

0

倫理研究所理事​長・丸山敏秋「風のゆくえ」 第130回

先月17日午前、大阪市北区曽根崎新地の雑居ビルの4階にある心療内科クリニックで火災が発生し、25人が死亡した。放火による残虐な殺人事件である。

JR大阪駅からほど近い現場周辺は、西日本有数の繁華街。火災そのものはわずか半時間で鎮圧したが、犠牲者の死因のほとんどは一酸化炭素中毒である。このクリニックは、コロナ禍も原因で心の不調を訴える人や、社会復帰・職場復帰をめざす人たちを支えていたという。

この痛ましい事件から、また火災予防のための規制が何か生まれるだろう。これまでも不特定多数が出入りする場所で火災が発生したり、多くの死傷者が出たりする度に、防火に関わる法令は厳格化されてきた。ちょうど50年前に同じ大阪市の千日デパートビルで、翌年には熊本市の大洋デパートで、それぞれ100人超が犠牲になる大規模火災が発生した。国は消防法などを改正し、ビルの所有者らに年2回以上の避難訓練を求め、11階以上の建物へのスプリンクラーの設置を義務づけた。

記憶に新しいところでは、2019年7月にアニメ制作会社「京都アニメーション」が放火され、36人が犠牲になった。放火にガソリンが使われたことから、業者がガソリンを容器に詰め替えて販売する際、顧客の身元や使用目的の確認、販売記録を作成することになった。事件が発生してからでは遅いのだが、次なる大規模火災を防ぐための規制強化は納得できる。

ただし、そもそも規制とは、政府や自治体が法律や条例を定めて人々の行為に介入してくることである。「○○は禁止」と規制するのは、「○○をしたら罰金」と同じ性質のもので、「税」は従量課金性の規制にほかならない。そのことを踏まえて、必要性の乏しい無駄な規制を取り除くべく法改正を進めていかなければ、国民は「健全な自由」を享受できない。

官僚や役人は、自分の実績を積むために、新たな規制を作りたがる。コロナパニックでの緊急事態宣言で、店舗の営業自粛を強いたのも規制の一つだ。特殊な事情ではあるが、一般に規制が増えるほど経済状況が悪化するのは当然である。

規制緩和には、アメリカで行われた「2対1ルール」が参考になる。すなわち、1つの規制を作るためには2つの不要な規制を撤廃する、という施策である。トランプ前大統領が就任直後に大統領令で実施し、大きな効果を発揮したという。不要な規制の廃止によって、余計な費用がかからなくなり、新しいビジネスも生まれてくる。素晴らしいアイデアではないか。

実際に、積み重なった多くの不要な規制が、日本経済の足を引っ張っている。そのことをよく理解した上で、改革の智惠を編み出していきたい。不要なものを減らさなければ、新しいものは生まれないのは、個々人の生活でも同様である。

なお、コロナ対応での給付金や支援金等々の財政出動の埋め合わせとして、いずれ財務省は増税を強いてくるであろう。そのツケはどんな形になっても、先々まで追いかけてくることは覚悟しつつ、理不尽な増税や不正を許さないよう警戒も怠るまい。

(次回は2月第2週号掲載)

〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。一般社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)ほか多数。最新刊『経営力を磨く』(倫理研究所刊)。

●過去一覧●

Share.