〈コラム〉マラソンと関節炎の関係 予防に大変有効と判明

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日本クリニック「医療の時間」第41診

だんだんと気候も涼しくなり、すっかり秋らしくなってきましたね。今年もNYマラソンに向けて多くの人がトレーニングをしているでしょう。ところで、米国では多くの人が、スポーツのしすぎで関節炎を起こすと思っています。関節炎(Osteoarthritis)とは、関節に炎症が起こり、骨がもろくなったり、軟骨が変形などして痛みを生じる症状です。米国ではスポーツとの関連性について多くの相反する研究結果が報告されていますが、その研究の多くが、被験者の数が少数で、研究年数も数年と短く、信頼性に欠けるものでした。
しかし最近、ローレンス・バークレー国立研究所が9万人の走者と歩行者を対象に1991年から22年間の長期研究を行い、その結果を米国スポーツ医学学会のジャーナルで報告しました。この研究は、関節炎を発症、もしくは、それに伴う人工関節手術をした割合を計算したもので、結果は、走者の関節炎と人工関節手術の割合は歩行者の約半分でした。その上、走る量が多いほど、関節炎とその手術のリスクが低下することが分かりました。もしランニングが関節炎の要因となるならば、研究に明らかな結果として反映しているはずです。
ではなぜ、人々はランニングが関節炎を引き起こすと考えるのでしょうか? それは関節機能への誤った理解によるものです。多くの人は、関節は固定された蝶番(ちょうつがい)で、激しく使うことですり減ると考えています。しかし実は関節は生き物で、多用し負荷を掛けることでより強度を増すのです。ただランニングで気をつけないといけないことは、賢く走ることにあります。悪いフォームはケガの要因となり、ケガが正常でない関節の動きを起こし、ケガによる傷が関節に負担をかけることで関節炎を発症するリスクが上がります。研究結果では、靱帯(じんたい)や腱などの断裂のような深刻な膝のケガをした人のうち、50%の人が10年以内に関節炎を発症したということが発表されています。
関節炎の原因は関節の摩耗や裂傷ではなく、一番の要因は肥満と遺伝なのです。肥満は関節に負担を掛けます。体重が増すごとに、その4倍の負荷が膝や関節にダメージを与えます。それ以外にも、脂肪組織は代謝が活発で炎症ホルモンを分泌し、それが他の軟骨や関節を含む全身に作用します。肥満の人は手首も関節炎になりやすいです。
遺伝による発症はまた別の要因で、研究者はすでに発症させるいくつかの遺伝子を特定しています。ですから、もし発症しやすい家系であれば、継続した運動を行うことと体重のコントロールを行うことで発症を遅らせたり予防ができます。ランニングはこのどちらも同時に行うことができる有効なスポーツです。
これらのことから、マラソンは関節炎予防にとても有効だと分かりました。ケガを予防して健康な体作りのためにも積極的にトレーニングを行いましょう。Good luck!
※ランニングと関節炎発症には何の関係性もないことが研究で明らかになりましたが、その他のスポーツ(サッカー、ホッケーなど)については、関節炎と関連があるといわれています。この詳しい研究はまだ発表されていません。
(参照:米国スポーツ医学学会研究報告)
(次回は10月第4週号掲載)

drvitale〈今回の執筆者〉ケン・ヴィターレ医師/Kenneth C. Vitale, MD
日本クリニック/15W 44th St. 10FL. NY,NY 10036
スポーツ医学、理学医療科、リハビリテーション科。

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