〈コラム〉ケン青木の新・男は外見 第112回

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“スーツ”について その13

“振り”加工がされたスラックスの膝の部分

“振り”加工がされたスラックスの膝の部分

前回(6月25日号掲載)はズボン・プレッサーがこちらではほとんど見掛ない、売り場にも見あたらない商品だと申し上げました。理由の一つが、日本とは異なるフィロソフィーによる洋服の“もの作り”にあるのだと。そしてその具体例が膝の部分の作りに見られるのです。

誤解のないように申し上げておきますと、日本製スラックス全てが直線と平面中心ということなのではなく、立体的なもの作りをされているメーカーさんもありますが、一般市場向け量産タイプの品物については、ほとんどが平面的なのです。その方がクレームも少なくなるからです。つまり、シルエットについてはカッコ悪く、また足の動きにズボンが付いて来ず動きにくくても、ズボンプレッサーやアイロンがかけやすい方が“売りやすい”ということなのでしょう。消費者の好みに合わせた“もの作り”は作り手の側からすれば当然のことではありますが、“本物はこうなのだ”と紹介していくことも、消費者の意識改革を促し、より大切なことだと思うのです。

前口上が長くなりましたが、その加工のことを日本では“振り”と言っております。膝の部分、片側を平台の上で延ばしますと、反対側の膝の部分に皺(しわ)が出ます、逆にその膝の出る側を伸ばしますと、今度は反対側に同じような皺が出るのです。ちょうど膝を起点にして振り子のような動きをするので“振り”と呼ばれるようになったのでしょう。

要するに、歩行動作の際の足及び体全体の動き、特に膝の関節の動きなど、骨格とその動きを考慮した上で立体的な作りとなっているということなのですね。縫製が良いとは、縫い目がきれい、といった単純明快なものでは決してなく、いかに人間中心主義を貫き、動きやすさと立体的シルエットの美しさを両立し、着用した人物をよりビビッド、魅力的に見せることができるかという一点にあるのです。

 さらに、これは注文服のスラックスに限られますが、O脚、X脚の方の足のラインを、プレスの仕方を一工夫することによって、ズボンのシルエットをより真っ直ぐストレートなラインとするも可能なのです。それではまた。

(次回は7月23日号掲載)

 

32523_120089421361491_100000813015286_106219_7322351_n〈プロフィル〉 ケン青木(けん・あおき) ニューヨークに21年在住。日系アパレルメーカーの米国法人代表取締役を経て、現在、注文服をベースにしたコンサルティングを行っている。日本にも年4回出張。

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