〈コラム〉ゾンビ負債

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礒合法律事務所「法律相談室」

最近collection agencyと通常呼ばれる取り立て会社から記憶にない、もしくは遠い昔に支払った負債を支払えという趣旨の請求書が届く人が増加しています。典型的な例として電話料金に基づく負債支払い請求書(以下、「請求書」)が挙げられます。多くの場合請求書には「貴方の滞納金額は500ドルですが、弊社に70ドルを支払えば示談という形で取り立ておよび本件では終了します」等が記されています。
この種類の負債は“Zombie Debt(ゾンビ負債)”と呼ばれ、元々の債権者は大手電話会社である場合が通常です。取り立て会社は債権者から負債額1ドルに対してXセントを支払い、負債を買い受け、新債権者として取り立てを行うか、負債を別の取り立て会社に売却します。届く請求書には“XX Assets Acquisition, Inc.”“XX Capital Holding Company”“XX Asset Management, LLC”等の聞こえの良い会社名が記されていますが、所詮は取り立て屋に過ぎません。
取り立て会社が買い取る負債ですが、元々の債権者が格安で譲渡する理由として負債請求訴訟の出訴期限が過ぎていることが挙げられます。訴訟の出訴期限は通常州法により規定されます。ニューヨーク州は負債請求訴訟の出訴期限は6年と規定しています。電話料金に基づく負債請求訴訟の場合、連邦通信法(Federal Communications Act)に基づき出訴期限の2年が適用される事例もありますが、その適用に関しては賛否両論あり、連邦裁判所の解釈も地区により異なります。よって基本的に自州の法が適用されるのという認識が無難です。
出訴期限が過ぎた場合、債権者による負債請求訴訟への道は絶たれます。出訴期限が過ぎた後の提訴は連邦債権回収行為防止法(Fair Debt Collection Practices Act)により債権者へ負債者・被告への弁護費用を含む損害賠償の支払い義務が発生することがあります。
出訴期限の過ぎた負債は実質的に無価値となり、格安値で取り立て会社に売却されます。債権者が代わった場合でも出訴期限の経過事実は変わりません。そのため購入した負債の元を取るため、提訴できない取り立て会社は前述の請求書を負債者に送り、滞納金額に対し、破格的な小額金の支払い示談提示を行います。提示額が少額ということで支払いを行い、全てを清算しようと考える誠実な人もいますが、その行為は非常に危険なため、支払いをする意図がある場合でも先に法律事務所へ相談されることが賢明です。
(弁護士 礒合俊典)
(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は4月20日号掲載)


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