集夢計画66「捨てる神あれば拾う神あり」

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アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第71回

「エンゲージリング」直径120センチ(撮影:Joseph. Hsu、Crystal Window & Door Systemsで)

「エンゲージリング」直径120センチ(撮影:Joseph. Hsu、Crystal Window & Door Systemsで)

新型コロナウイルスが世界中に広がり、米国も緊急事態となりつつありますが、皆様、無事にお過しでしょうか。私の生活は特に変わらず、クイーンズのCrystal Window & Door Systemsの工場の一角で作品制作を続けています。外国人も多い会社ですが、外国帰りの人は14日間出勤不可という規則が今年早々出て、皆それに従い大きな混乱もないようです。

さて、この工場での制作について、昨年11月のコラムで「駐場芸術家」と「物尽其用」という言葉で紹介しました。私は工場に駐在するアーティストで、物は無駄なくすべて使うという意味です。窓とドアを作る工場から出るゴミ:生産過程で使われなかった物や過剰生産で廃棄される物を素材にして作品にしています。これまさに、「捨てる神あれば拾う神あり」。工場で制作するようになって、アートとは無縁だった職人たちが興味を示してくれたり、会社のゲストを迎えたりで、次の展示会を待ち望む人が増え、アートの社会への広がりを感じます。

コラムのタイトル「チリも積もれば芸術に」とあるように、私は人の生活から出る不用品、ゴミのようなものを集めて制作するスタイルを30年以上続けています。素材として集めたものは、ペニー(1セント)硬貨、ペンやおしゃぶり、ペットボトル、携帯電話、野球のボールやメトロカードなどで、人間の生活、社会変化を題材に、本当に大切なもの、愛・平和・自然との共存をアートを通して訴えています。

最近、環境を破壊しない、地球に優しい取り組み(Sustainability)に注目が集まってきたのはうれしい限りです。工場で制作した作品を発表するはずだったアート・エキスポ・ニューヨークは、コロナの影響で10月へ延期が決定。これまで体験したことのない規模での地球環境の変化に、自然の一部である人間として、理性をもって柔軟に対応していけるか試されているようです。

(次回は5月第2週号掲載)

〈プロフィル〉リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック

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