集夢計画70「政治の椅子とアート」

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アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第75回

「千客万来椅子」。愛と平和、夢と希望を祈って制作、横幅2.5メートル、高さ1.6メートル

「千客万来椅子」。愛と平和、夢と希望を祈って制作、横幅2.5メートル、高さ1.6メートル

今年も残すところひと月余り。2020年は、新型コロナウィルスの蔓延に始まり、社会生活は一変。マスク着用、オンライン中心、これまでとは違う未来を考える年となりました。新型コロナの感染増加は今も続き、世界での感染者は5200万人以上、死者は120万人を超えています。中でも一番感染者の多いアメリカに住む私へ電話してくれる人の第一声は「大丈夫?」、そして声を聞いて無事であることが分かると「生活は大丈夫?」と心配し、激励してくれます。多くのアーティストが仕事の場を失い、困っている仲間たちが大勢いるからです。

ニューヨークがパンデミックで、生き残るために皆で自宅にこもった3~5月、街中が暗く静まり返った中にも明るい音が響く時間がありました。医療従事者などのエッセンシャルワーカーに尊敬と感謝の気持ちを捧げる夜7時。部屋の窓から顔を出し、叫んだり、鍋を叩いたり、歌ったり、楽器を奏でたり。ニューヨークが愛と平和で団結していると感じる数分間でした。私もできることをと考え、来年の干支にちなみ「牛王」を、困難な時期を一緒に乗り越えるシンボルとして制作し、グリーンマーケットの1日美術館で発表したのが8月の終わり(前回=9月21日号掲載=のコラムで紹介)。

今月3日の大統領選挙の決着はまだつかず、街では暴動に備え、店のガラスは中が見えないように板張りや黒塗りが目立ち、暗い雰囲気が続いています。選挙は国会の椅子の奪い合い…。

対立はもう終わりにして未来への道を前進させませんか。新たな安定を見つける道のりは長くなりそうです。疲れたら、私の作った椅子で一息ついてください。誰が座ってもいいんです。千客万来。休んだら更に遠くまで、夢に向かって進めますよ。今年もアートを続けられたことに感謝。

(次回は1月第3週号掲載)

 

林世宝〈プロフィル〉リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック

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