〈コラム〉ケン青木の新・男は外見 第125回

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“スーツ”について その26

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グレーのスーツについてお話しておりますと、今でも“ドブネズミ”とか“ドブネズミ色のスーツ”などと言われる方がおられます。グレーのスーツは没個性でつまらないとも。ビジネスの世界では控えめ、かつ知的に目立つのがいいのでは、と考え、その意味でもグレーのスーツは適していると言えるのですが…。

“ドブネズミ”、昭和30年代後半の“流行語”で、スーツをきちんと装うこと気を遣わず、考えもせず、毎日ただ仕事着としてスーツを着用している、一見無個性に見える当時のサラリーマン諸氏を揶揄(やゆ)した言葉と認識いたしております。

実は昭和38年に「ドブネズミ色の街」というタイトルのNHKドラマがあり、当時の高度経済成長下の日本、私が子供の頃は近所にまだドブとかドブ川と呼ばれる川があったんですね。この後、多くの公害問題が時代の負の側面として起きていくのですが。

40代前半より若い皆さんは、ドブ川を見たことのない方がほとんどであろうかと。実は“丼鼠”と書いて“どぶねずみ”と読ませる色の呼称は江戸時代中ごろからあり、中間より濃いグレーを意味したそうですが、昭和の経済成長期における“ドブネズミ色”とは、灰色グレーではなく、何色かハッキリしないが“濃く汚い色合い”のを意味していたようなのです。子供のころの記憶では、ドブ川は確かに黒でも茶でも灰色でもなく、そうした色合いをゴチャ混ぜにした複雑怪奇な色合いでした(苦笑)。

加えて1948(昭和23)年から続く雑誌『暮しの手帳』で、NHKのドラマとほぼ同時期に、名物編集長であられた花森安治さんが“ドブネズミ色のスーツ”と言い出した、という話を聞いたことがあります。やはり花森さんもグレーではなく、冴えない汚い色という意味での“ドブネズミ色”であったようです。“ドブネズミ”、決して良い響きではありませんが、当時の日本経済を支える“サラリーマン”の呼称の他、“企業戦士”なる勇ましい言葉も使われ、身なりを気にせず働く彼らをリスペクトする意味もあったのでした。それではまた。

32523_120089421361491_100000813015286_106219_7322351_n〈プロフィル〉 ケン青木(けん・あおき) ニューヨークに21年在住。日系アパレルメーカーの米国法人代表取締役を経て、現在、注文服をベースにしたコンサルティングを行っている。日本にも年4回出張。

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