〈コラム〉習慣の壁を破れるか

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丸山敏秋「風のゆくえ」第8回

人間は「習慣の束」である。
古代ギリシアのアリストテレス以来、多くの人たちがそう指摘している。その通りであることは、昨日の自分を振り返ってみたらすぐに分かる。
行動だけではない。考えたり感じたりするのも、だいだい同じパターンを繰り返している。クセはなかなか取れない。悪癖から逃れたいと思っても、すぐに負けてしまう。習慣の力はとてつもなく強い。
ロシア出身の神秘思想家であるゲオルギイ・グルジェフは「われわれが知っているような人間は、一個の機械である」と言い放った。そして「人間が機械であるかぎり、真に道徳的な生き方はできない」とも諭した。自分が機械だなんて思いたくはない。しかし、習慣でかんじがらめになっていたら、やはり機械人間と言われても仕方がないだろう。
好ましい習慣までも変える必要はない。だが、たとえ好ましい習慣でも、鋳型にはまったように繰り返す人生では物足りない。もっと主体的に、創造的に生きたいと思う自分がいる。そのためには、習慣の壁を打ち破らなくてはならない。
習慣の壁を破っていく秘訣をお伝えしよう。それは|「気づいたらすぐする」という実践である。
気がついても、サッと行動しないことが多い。面倒だからと、つい先延ばしにしてしまう習慣が身についてしまっている。
気づきとは実に不思議で、あたかも天からの指令のように第一感に響いてくる。そこに習慣化されたものはない。気づいた時が最高のチャンスなのだ。「気づいたらすぐする」ことを心がけていると、なるほどそうだと得心できるようになる。
しかし最初は混乱する。あれこれ気づき過ぎて、何からとりかかればよいのか迷ってしまう。あるいは逆に、気づきの鈍い自分を腹立たしく思ったりする。
そんなときは、ただ一つのことにだけ取り組むことを勧めたい。それは、朝の起床の仕方である。
目覚めは気づきの瞬間だ。どんなに鈍い人でも一日に一度は目が覚める。そのとき、サッと起きるか、いつまでもベッドにしがみついているか…。
目覚めたらサッと起きるという簡単そうな実践が、意外に難しい。そして奥が深い。この実践が無理なくできるようになると、色々な場面での気づきの感度が増してくる。噛み合わなかった歯車が噛み合ったように、仕事がスムーズに運んでいく。毎日が新鮮に感じられる。
それほど素晴らしい実践があると知らされても、人はまずやらない。本心ではやりたくない、つまり今の自分を変えたくないのだ。
そう、だから人間は「習慣の束」と言われつづけてきたのである。
(次回は12月10日号掲載)
maruyama 〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)、『今日もきっといいことがある』(新世書房)など多数。

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