集夢計画28「道可道、非常道」

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アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第33回

ジョン・ジェイ大学での講義の風景

アートを長くやっていると、講義の依頼が時々ありますが、教えるのは苦手だし、私の仕事ではないと思っているのでほとんどお断りしています。それでも、強い要望が友人を通してあり、先月マンハッタンにあるジョン・ジェイ大学(John Jay College)で一日講師をしました。それもアートのクラスではなく哲学のクラスで。テーマは、老子の「道徳経」の最初に出てくる「道可道、非常道。名可名、非常名。(略)」。

「道」に対する私のイメージでクラスを作ってよいということだったので、前半40分は私を含めて誰も話さないというルールで進めました。無言の中で、10数パターン、様々なスタイルの「道」という字を筆と墨で書きました。写真やビデオは許可したので、携帯電話で写真を撮り、サーチしている学生が数人いましたが、無言が破られることはなく進みました。

老子の言葉を大まかに解釈すると、世の中の原理・法則・真理などは不変ではなく、時間や空間よって変化していくとなり、私の芸術観にも共通しています。芸術は人類の精神・思想・智恵の結晶であり、新しい価値や感覚を引導するものです。思想を超え、法則を破り、発想を自由に幅広く展開し、存在するものを超えるものを追及するのがアートの道です。

小さい、大きい、長細い「道」の様々なスタイルは、法則は一つではないという表現であり、無言は「沈黙は金」、そして、生まれて初めて坊主頭にしたヘアスタイルもアーティストとしての私を表すもの。

学生さんがこれから世に出て、目の前のことを自分で決めるとき、赤信号で自然に止まるように、良い方向に向かって良い方法を生み出してほしいと思います。変化の激しい現代、周辺の問題は山積みのように見えますが、人間は智恵をもって解決していける存在。人として、鋭敏な観察力と好奇心を持ち世の中を見ていくと、自ずと道は見えてくるもの。無言の講義の中で何かを悟ってくれればいいと思った一日でした。

(次回は12月第2週号掲載)

林世宝

〈プロフィル〉リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック

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